さえない顔つきもわかる。オープン戦、勝ちなしの9連敗。いくらリハーサルとはいえ、ミス連発の内容に、監督の岡田彰布の口調は重い。

最近、試合後によく聞くのが捕手への苦言だ。中には強烈なフレーズもあった。「キャッチャーが若い投手を殺してしまう…」って、あまりに過激。それほど今は、捕手問題で頭を痛めている。

実は…の話をひとつ。沖縄キャンプ中に梅野が故障。右肩の肉離れとの診断が下った。その時点では復帰の見通しは立たなかった。症状が軽いものなら幸いだが、もし長引けば…。最悪の事態を想定し、現場と球団編成が話し合いの場をもった。

捕手の緊急トレード。極秘裏に編成部が動き始めた。梅野が開幕に間に合わなかった場合を想定し、パ・リーグを中心に即戦力になる捕手を探った。ところが現状のプロ球界、力のある捕手に余剰戦力はなかなかいない。どこも捕手不足…。そのことを岡田に後日談として聞いた。トレードを画策したかどうかには、イエスともノーとも言わなかったが、今後のトレードは? に「もう、ないわ」と緊急補強プランが消えたことを明かした。

そして数日後、岡田の顔が少しだけ緩んだ。それは梅野に開幕参戦の目途が立った、の報告があったからだった。「やっぱりキャッチャーの存在はデカいよな。ピッチャーは捕手で変わるもんな」。連敗中に届いたうれしい事柄だった。

岡田は内野手出身の監督だが、どこのポジションにおいても野球論をかわせる知識がある、と関係者は認めている。それは捕手についてもそうで、あくまでキャッチャーは投手のよさを引き出す役割を担うもの。投手のよさを引き出し、相手打者の狙いを察知し、うまく変化をつける。とにかく1球、1球に意味あるリードを。そう定義している。

「えーい、なるようになるわ、っといったリードするキャッチャーはアカン。なるようにならんのが野球やから」。前回の監督時代、矢野がいた。彼を「安全運転の捕手」と岡田は評し、信頼していた。安全にいけば、リスクは少ない。となると現体制下では梅野が矢野タイプになるのか。外角中心のサインを送り、極力、ダメージの少ないリードが特長。もうひとりの坂本はいかにも大胆。ここでインコースはないやろ…の局面でも、内角を続けてベンチを驚かせることが多かった。

この色合いが違った2人がいてこそ、阪神の捕手が成立する。昨年は梅野が4、坂本が2。6連戦を見越し、岡田は先発捕手を「4対2」の法則を考えた。それが今年は「3対3」になるやろな…と2人に五分のウエートをかけるつもりでいる。

そういった構想は梅野の故障で白紙になりそうだったが、何とか間に合う気配。先発ローテーションの6投手にどう梅野と坂本を使い分けるのか。こういうことを考えることができる梅野のよき見通し。明るい兆しと見たい。【内匠宏幸】(敬称略)

キャッチボールをする梅野(2024年3月10日撮影)
キャッチボールをする梅野(2024年3月10日撮影)
阪神対巨人 ベンチからグラウンドを見る岡田監督(2024年3月10日撮影)
阪神対巨人 ベンチからグラウンドを見る岡田監督(2024年3月10日撮影)