4月3日のDeNA戦の試合後だった。逆転勝ちした展開に、阪神監督の岡田彰布は「守り勝ちよ」と言った。勝負どころでの守備が光ったゲームで「これが阪神の野球」と納得する結果だった。

その前日、2日は真逆の内容だった。先発の村上がまさかの初回4失点。引き金になったのは三塁佐藤輝のエラーだった。1死一、三塁での三塁ゴロ。強い当たりではあったが、正面だったし、併殺で脱出と思われたところで、佐藤輝は前に大きく弾いてしまった。

「併殺で終わってるところやんか。それだけのことよ」と岡田はバッサリ。担当コーチの馬場は「本人に聞いて」とだけ口にした。このエラーが大量失点につながり、タイガースは負けた。首脳陣には大いに不満が募る失策。特に佐藤輝の守備力強化に臨んできた担当コーチはガックリときて、言葉を出す気にもならなかったのだろう。

そんな時、監督、コーチと選手の間に立つのがヘッドコーチ。平田勝男はゲーム後、佐藤輝と向き合っている。「お疲れナマです」で知られるように、平田はユーモアがあり、常に明るく振る舞う印象が強い。だが実際は違う。熱い男で、これまでキレることもしばしばあった。

そんなヘッドコーチは佐藤輝に対し「あの場面での守備位置を考えないと」と指摘。アンツーカーの切れ目で打球が変化する恐れがあるから、守りの位置は前に出る場面だったと伝えている。

コーチが選手に対して、どこまで言葉にすればいいのか。ちゅうちょすることもある。そんな時、間に入るのがヘッドコーチ。平田は監督の気持ちを理解して、緩衝材になっている。

「(岡田)監督がいかに佐藤輝に期待しているか。それを聞いているだけに」。シーズン前、岡田は本社のお偉方を前に、こう予言している。「今年、佐藤輝は数字を残しますよ。それもとんでもない成績を収めるかも。それくらいに期待感がある」。いつも佐藤輝には辛口なイメージが先行してきたが、その裏ではこういう発言があったのだ。それを平田は知っている。だからヘッドコーチは監督の胸の内を察知し、佐藤輝に向き合い、厳しい言葉もぶつける。

岡田は選手に直接、声をかけることはほとんどない。例えば選手がミスしたとする。すると岡田はコーチに修正を強く求め、時に強い口調になる。前回の監督時代、それはヘッドコーチの平田にも向けられていたが、いまはそれはない。2人とも年齢を重ね、性格も丸くなったし、それでも熱くなることを忘れていない。長年の付き合い、キャリアが生んだ関係性はベンチに中にみられる。

「監督の考え、気持ちはわかる。それに沿って、どう対処していくか」。強いチームに名参謀あり。これも球界の言い伝えのひとつ。そういう意味では平田の存在は大きい。今シーズンもヘッドコーチの知られざる動きに注目である。【内匠宏幸】(敬称略)