懐かしい名前が出た。阪神は新加入ボーア、サンズがアベック満塁本塁打を放っての大勝だ。ボーアはすでに2本目の満塁弾。来日1年目の外国人としてはマートン、カークランドに並んだ、と記録メモにある。

マートンは記憶に新しいがカークランドとは。つまようじをくわえ、打席に立つ姿をテレビの前に座り、リアルタイムで見ていた。

ウィリー・カークランド。68年から73年まで6シーズンも阪神に在籍した好選手だが個人的に印象深いのは73年10月22日のシーンだ。その日、甲子園で行われた阪神-巨人の最終戦。勝った方が優勝というとんでもない展開だった。そんな大一番で阪神は0-9と大敗。巨人にV9を達成させる結果になった。

終了直後に阪神ファンがグラウンドになだれ込み、巨人監督・川上哲治の胴上げができなかったいわく付きの試合。最後はカークランドの豪快な空振り三振だったことを覚えている。

虎党ならご承知だろうがこの「優勝決定戦」には伏線があった。その2日前の同20日、阪神はビジターで中日と戦った。そこで勝っていれば巨人最終戦を待たずに優勝が決まっていた。

その試合、中日は星野仙一が投げた。星野は子どもの頃からの虎党だ。それが高じてのちに阪神監督を務め、03年に優勝させたのは言うまでもないが中日エースだった当時も「阪神に勝たせたかった」と思っていた。03年の虎番キャップ時代に直接、聞いた。

「どうせなら阪神に勝ってほしかったわ。そりゃあ。わざと打たれるわけにはいかんかったけどな。ブチ(田淵幸一)には“打ってみい”という感じでストレートを真ん中に投げ込んだんや。でも打たんのよ。硬くなってたんやろうな」

いかにも「昭和の記憶」と若い人は笑うかもしれないが心躍るプロ野球の日々だった。あれから約50年。未曽有のコロナ禍で世の中は一変したが、当時と今季を比べて変わらないのは、長い間の紆余(うよ)曲折はあったものの、やはり「巨人は強い」ということかもしれない。

ならば、そこに挑戦していくのが阪神の伝統、責務だろう。来週8月4日からは今季初、甲子園で行われるTG3連戦だ。その対戦までに首位巨人へどれだけ迫れるか。今週の戦いは重要だ。大量得点で勝って、僅差で負けてはいけない。いつも同じことだが大事なのは次の試合である。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

73年、阪神カークランドの打撃フォーム
73年、阪神カークランドの打撃フォーム