もっと泣いてエエで。大山悠輔。監督を見てみい。ボロボロやないか。優勝でも何でもないのにシーズン中にあんなに泣く監督、見たことないぞ。…なんてエラそうに言わせてもらえば、そんな気持ちだ。

本格的に泣くのは優勝したときでいいけれど、ここは泣いていい場面。悔しかっただろう。まるで打てない。申し訳ない。4番に戻してもらったのに。そんなときに回った好機だ。大事なところで打ててよかった。涙が流れるのは必死でこらえていたけれど大山の目は真っ赤だった。「男は泣くな」と育てられたか。若者にとっては人前で泣くなんてかっこ悪いのか。真っ赤な目から大山の気持ちは十分、伝わってきた。

これがプロ野球だ。これが「カタルシス」だ。積もり積もった鬱憤(うっぷん)を晴らし、スッキリすること。健全モードの映画、ドラマにとって欠かせない重要な要素だ。それが生の戦いで実感できる。これがプロ野球の興行だ。

なぜ大山が4番なんだ。なんでロハス使うんや。そう思う虎党は多い。ここでもそういったことを書く。だが起用には指揮官・矢野燿大の考えがある。後半戦に向け、上積みがいる。現状、それはロハスしかいない。大山は主砲になってもらわなければ困る。だからここで戻すんだ。そういうことだろう。

起用には理由も、狙いもある。だがそれが常にうまく運ぶとは限らない。失敗することもあるだろう。監督の策が全部、的中するならどの球団も優勝だ。試行錯誤するのは当然。そしてその権限と責任は、当たり前だが、矢野にある。

昨年だったか矢野とこんな話をした。ネット上とかの批判はどう思っているんかな。見たら、やっぱり気になるのかな。苦笑しながら、矢野はこう言った。

「そういうのは見ませんよ。でも勝手に阪神のニュースといっしょにスマホに入ってくるんでね…」。なるべく触れないようにと思っても目に入る場合もあるだろう。平然を装っていても、やはり穏やかではいられないはずだ。

そんなこんなも含め、これが阪神の指揮官だ。「阪神の監督は他でやるのとまったく違うぞ。寿命が縮まる」。闘将・星野仙一から何度も聞いた言葉だ。教え子である矢野もそれをかみしめる毎日だろう。まだシーズンは半分。苦しさは続く。だからこそ、たまにはこんな夜があっていい。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)