力尽きた。そんな言葉がこれ以上なく、ぴったりとくる試合だった。ここ6試合、負けなしで突っ走ってきたチームと思えないほど元気がない。その6試合は無失策で踏ん張ったが先制を許したのは糸原健斗の送球ミスから。それを取り返す打線の奮起は最後まで起こらなかった。冷静に現実を見れば、これが「実力」というだろう。

指揮官・矢野燿大の勝負手も不発に終わる。先発・青柳晃洋を2回で代える積極策は奏功しなかった。シーズン前から優勝を宣言し、手中に収めるかと思えた時期も続いたが悲願達成はならなかった。消化試合ゼロ、143試合目まで戦った結果は「V逸」だ。

それでも矢野を、選手を責める気にはならない。77勝はセ・リーグ最多である。優勝を決めたヤクルト、3位巨人を含め、4球団相手に勝ち越し。広島ともタイの成績を収め、どこにも負け越さなかった。

コロナ禍による9回打ち切りの特別ルールで引き分けが増えたけれど阪神のそれは12球団最少の「10」。これがヤクルトに栄冠をさらわれる理由になっただろう。しかし、そのルールに順応し、代走要員を繰り出す形で勝ってきたのも事実。ルールは公平だ。言い訳はできない。そして今季の阪神はなかなか強かった。それも事実だろう。

「日本で一番、高い山は富士山。では2位は? 日本で一番広い湖は琵琶湖。では2位は?」。あれは10カ月前。沖縄・宜野座キャンプで藤浪晋太郎がナインを前に“演説”をした。

「みなさん、2位のことは知らないと思います。そういうことです。1位にならないと意味がないのです。勝ち切らないと意味がないのです」。大阪桐蔭時代に教えられた訓話を用い、ナインを感心させた。

ヤクルト相手に開幕投手を務めたその藤浪だったが不調のためシーズン途中で脱落した。藤浪だけではない。不調、故障でメンバーが次々に入れ替わりながら満身創痍(そうい)で戦った。その結果が2年連続の2位である。

2位は昨季と同じだ。でも今季は、やはり少し違う気もする。優勝ではないが限りなくそれに近い2位では…。負け惜しみだが、そんな気もしている。そして本当に「記憶に残る特別な2位」にするためには。この脱力感から立ち直り、次の短期決戦で「リーグ77勝」の力を見せる。それしかないと思う。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)