甲子園で「若大将」が「闘将」に並ぶことは阻止しろという話だ。
ヒヤヒヤさせたが最後はクローザー岩崎優が2死満塁の危機をしのぎ、阪神が前日の雪辱を果たした。これで今季の巨人戦は6勝5敗と再び勝ち越し。最下位にあえぐシーズンとはいえ、ここだけは意地を見せている。
そしてシーズンの行方には直接関係ないが、このカードには別の意味があるのだ。巨人の指揮官・原辰徳は延長12回の死闘を制した前日で監督通算1180勝(902敗86分け=勝率5割6分7厘)とした。
この数字は中日、阪神、そして楽天で指揮を執り、監督通算1181勝をマークした星野仙一の勝利数に「あと1」と迫るもの。星野は「監督通算勝利数」で10傑に入っている。試合前の時点で原は甲子園の残り2試合で1勝すればそれに並び、2勝すれば抜き去る状況になっていた。
甲子園での巨人戦といえば思い出すシーンがある。闘将が指揮を執り、阪神が優勝した03年。同年3位になった原は、前年02年に監督就任と同時に優勝していたにもかかわらず、辞任が決まっていた。
甲子園の最終巨人戦。星野は原に花束を渡して「くじけるな」と激励した。親交が深い両者の関係を考えれば不思議ではなかったけれど、宿命のライバルとして敵味方に別れていたにもかかわらず、球界の後輩に対する星野の態度に原だけでなく、みんなが胸を熱くした記憶は残っている。
「ミスター・ドラゴンズ」だった星野がタテジマのユニホームを着たのも「伝統の一戦」が決め手だ。01年冬、阪神から監督就任要請を受けたが迷っていた星野の背中を押したのは「ミスター・プロ野球」長嶋茂雄からかかった1本の電話だった。
「仙ちゃん、何を悩んでるんだ。阪神の監督、やれよ。もう『伝統の一戦』なんてなくなってるんだ。仙ちゃんがそれをよみがえらせろ」。阪神の長い低迷でつまらなくなった球界を思い、敵味方を超えたエールに星野は決断した。
そして、いま、長嶋、星野と縁の深い原が闘将の記録に並ぼうとしている。それはいい。しかし甲子園ではあかんで。それが星野阪神に喜ばせてもらった虎党の思いかもしれない。その使命は星野の教え子でもある指揮官・矢野燿大に託されている。この日のように序盤から走って仕掛け、巨人に勝ち越せ。(敬称略)