「おかわり君」こと渡部が、日本ウェルネスで野球をやった意味は確実にあった。

 試合後、敵将の帝京・前田三夫監督(67)が言った。「渡部くんの前に走者を出しちゃうと怖い。あのショートの子だけには、うまく変化球を放っていかないといけない」。4打数1安打に抑えられ、負けた。でも、伝え聞いた渡部はどこかうれしそうだった。

 175センチ、105キロの大型遊撃手は、4回戦の独協戦で本塁打を“おかわり”し、2打席連発で一躍注目を浴びた。ケガや家庭の事情で、横浜商大高(神奈川)から1年2月に転入。甲子園出場の伝統校から、専用グラウンドを持たない創部4年の真新しい野球部へ移った。「環境は関係なかった。また野球がやれたことがうれしくて。それだけで良かったです」。心を入れ替え、キャッチボールの基礎から学んだ。シュート気味の投げ方を修正すると、守備範囲はグンと広がった。守りにリズムが出ると打撃にも好影響が出た。

 規定により転入後、1年間は公式戦に出られなかった。日本ウェルネスでの公式戦出場はこの春と夏だけ。短かったが、将来の夢を決めるには十分だった。秋にプロ志望届を出す予定だ。「お父さんが車が欲しいって言ったから、買ってあげられたらいいなって。親にはいろいろ迷惑をかけたので野球で恩返ししたいです」。いつかまた、神宮球場で“おかわり”する日を夢見る。【和田美保】