東北悲願の初優勝に挑む仙台育英(宮城)が、8-5で鳴門(徳島)との接戦を制した。1回表に4点を先制し、4回にも2点を追加。同裏に反撃されたが、エース右腕・大栄陽斗(あきと、3年)が三塁から2番手で登板し、後続を断って同点を防いだ。7-5の7回には貴重な中前適時打を放つなど、2戦連続の3安打「猛打賞」で二刀流の実力を示した。17日の3回戦は第3試合で、8強入りを懸けて敦賀気比(福井)と対戦する。

大栄が相手の勢いを完全に断ちきった。7回表1死三塁。1-2と追い込まれても決め球のスライダーを中前に運んで、8-5と点差を広げた。「前の1球がスライダーで泳がされていたので、次も変化で来るなと思った。確実に追加点を取れて、後半に粘り強い自分たちの強みが出た」。直前に一塁走者が二盗を封じられ、勢いを引き戻せていなかっただけに価値ある一打。普段は冷静沈着な男が、一塁上でガッツポーズしながら雄たけびを上げるほど、会心の一撃だった。

飯山(長野)との初戦で24安打20得点。記録ずくめの大勝を導いた打線は、初回から勢いそのままだった。この日5打数4安打の中里光貴内野手(3年)が初球を左翼線二塁打。宮本拓実外野手(2年)も初球でバント安打を決め、わずか2球で無死一、三塁の好機をつくった。入江大樹内野手(2年)の三ゴロ併殺の間に先制。続く小濃塁外野手(3年)が豪快に右越えソロ。千葉蓮内野手(3年)、大栄、猪股将大捕手(3年)と4連打で一挙4点を奪った。

甲子園初先発の鈴木千寿投手(3年)が4回裏に相手打線につかまったが、4回表の攻撃時に約20球のキャッチボールで準備していた大栄が無死一、二塁から救援。1点差まで詰め寄られたが「伝令で須江先生に『自信を持って投げろ。同点OK』と。そのひと言で冷静になれました」。自身の好フィールディングもあり、ピンチを脱した。

今春、練習試合で結果が直結しないチームを変えたのも大栄だった。3月の岡山遠征、今大会にも出場している岡山学芸館や、創志学園、おかやま山陽の強豪に敗戦。3年生全員が一緒に宿泊した岡山学芸館の大広間で、危機感を抱いた緊急ミーティングが開かれた。互いの意見を言い合い、試行錯誤する中、普段は多くを発しないエースが「須江先生を信じて、自分たち仲間を信じる気持ちを最後まで貫かないと、良い結果にはならないだろ」。少し強い口調が、負の心を脱却させた。

大栄も入学後から本格的に始めた投手として、球速約20キロ増の最速145キロに成長した。1年冬にはスライダーを習得。甲子園でも通用する武器を身につけて引っ張っている。「今日は左打者の内角に思い切って直球を投げられたことが良かった。ここからが本当のヤマ場。日本一にふさわしいチームになることを目標にやっている。必ずベンチ外の仲間を含めて喜ばせたい」。背番号1の存在が、ますます際立ってきた。【鎌田直秀】