<高校野球埼玉大会:浦和学院7-2花咲徳栄>◇28日◇決勝◇大宮公園球場

高校野球のドラマは、勝った者にだけ生まれているわけではない。日刊スポーツでは今夏、随時連載「君がらんまん」で、勝者だけでなく敗者にもスポットを当てた物語をお届けする。

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花咲徳栄の4番・小野勝利内野手(3年)は、聖地に戻ることができなかった。5点を追う9回2死一、二塁。ネクスト・バッタースボックスから、打席の石塚裕惺内野手(2年)に向かって「ゆうせい! 大丈夫だ!」と声をかけたが、中飛に倒れ試合終了。ぼうぜんと立ち尽くし、座り込んだ。スタンドにあいさつを終えると、膝から崩れ落ち、涙が止まらなかった。

横浜(神奈川)では1年時に甲子園に出場。昨年6月に転校してきたが、規定により1年間公式戦に出場することが出来なかった。2年ぶりで、最後の夏。今大会にかける思いは誰よりも強かった。準決勝の試合後も室内練習場で2時間打ちこんだ。チームメートも「野球に対してものすごくストイック」と尊敬のまなざしを向ける。「自分が甲子園に連れて行く」。「恩返しをする」。自身の思いを、日々ノートに書きつづった。だが、あと一歩で、聖地への道は途絶えた。「(監督の)岩井先生が自分を受け入れてくれて、今ここにいる。なんとしてでも甲子園に連れて行きたかった」と大粒の涙が頬を伝った。

巨人、西武でプレーした父剛氏(45)と同じ舞台に立つため「プロ志望届を出します」と宣言。「今まで以上にうそつくことなく、日々鍛錬して、この日が良かったと思える選手になりたい」。花咲徳栄野球部で作った大切な思い出を胸に、前を向く。【星夏穂】

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