<高校野球・秋季北海道大会:鵡川5-3旭川実>◇3日◇準々決勝

 鵡川が旭川実を延長11回5-3で振り切り、準決勝に進出した。強打のイメージが強い鵡川だが、3-3の11回表無死一、二塁から宮本悠貴遊撃手(2年)がバントを決め、1死二、三塁。2死満塁となってから森泰一一塁手(2年)が三塁失策を誘う強烈なゴロを放ち、勝ち越しの2点を奪った。北海学園札幌、函館大有斗、駒大岩見沢も勝ち上がり、4強が出そろった。

 68歳、甲子園を春3度、夏2度経験しているベテランの鵡川・佐藤茂富監督も試合終了後、しばらく声が出なかった。そして一言。「ジーンと来た。久しく、こんな試合はやってないよ」。3-3で延長に突入。ともにがっぷり四つの好勝負は、11回に決着がついた。2死満塁から176センチ、98キロの巨漢・森が2-2からの外角カーブを強振。三塁線を襲った強烈な打球が相手失策を呼び、その間に2走者が生還した。11回裏の旭川実の反撃を封じ、2時間56分の熱戦にけりをつけた。

 「この勝ちは非常に大きい。チーム全員でもぎ取った1勝です」と森は声を弾ませた。旭川実に1回裏2点を先行され、6回に同点としたが、その裏また1点を奪われた。7回表2死一、二塁から主砲柳田恭平左翼手(2年)の左前タイムリーで、再び追いついたが、そこからは、こうちゃくした。

 勝利への1つ目のポイントは、10回裏の守り。無死一塁でこの日4打数4安打の関潤一一塁手(2年)を迎えた場面だ。2ボールになると、2球外して歩かせた。後続の2打者を凡打で切って取り、得点を許さなかった。2つ目は11回表の攻撃。宮本の送りバントだった。佐藤監督の「細かい野球は、やりたくない」という考えで、犠打が少ないのがチームカラー。だが、今大会は帯広大谷との1回戦、北海との2回戦ともに、ここぞという時に1個成功させた。11回無死一、二塁の場面も「迷った」と言うが、3バントを成功させ、2得点に結びつけた。

 「バントも逃げるのも嫌いだけど、おれも68歳だから、もういいか」とこれまでの野球信条をかなぐり捨て、ただ勝利だけを目指した。最近はバント練習もしっかりと積んでいた。打撃練習の初球は必ずバントで、1人1日15回はやる計算になる。殊勲の宮本は試合後、折霜忠紀コーチ(51)に「よく決めた」と肩をたたかれ、162センチ、58キロの小さな体をさらに小さくして喜んだ。鵡川町民や“茂富監督ファン”が期待する、もう1つの扉が開きつつある。【中尾猛】