<全国高校野球選手権:帝京8-7花巻東>◇7日◇1回戦

 帝京(東東京)が“怪物”151キロ右腕を攻略した。3度追いつかれながらも花巻東(岩手)を振り切った。同点の7回表2死一、三塁から主将の4番松本剛内野手(3年)が右前に決勝適時打を放ち、乱打戦を制した。花巻東・大谷翔平投手(2年)は5回に150キロを計測。05年夏に駒大苫小牧・田中将大(現楽天)が記録した2年生の甲子園最速に並んだが、本調子ではなかった。

 191センチの快速右腕を攻略したのは、帝京の主将、松本だった。7回、前打者伊藤の振り逃げで回ってきた好機に、4番打者は強振しなかった。外寄りの146キロ直球を右前にはじき返す決勝打。高校通算32本塁打、うち22本が今年に入ってからと長打力を増したが「長距離砲ではない」と自覚、特に外の球を打つときは「ライト線に打って三塁打を狙っている」と軽めのスイングを心掛けるという。欲のない打撃が生んだ値千金の一打だった。4回1死一、三塁では大谷の代わりばなの初球148キロをたたき右翼へ犠飛。「速いとは思ったけど打てないとは思わなかった」と胸を張った。

 努力が実を結んだ。「下手だった」という幼少のころ。母和美さんと毎日のようにキャッチボールを繰り返した。打てなければバッティングセンターにも通い詰めた。夜、自宅のある埼玉・川口市から足立区の河川敷へ母や父勝浩さんに車を飛ばしてもらい、高速道路の薄明かりが漏れる中でカベ当てなどで練習し続けた時期もある。地方大会ではチームトップの5割9分3厘、3本塁打。聖地でも勝負強い打撃も披露した。それでも「投手陣が粘ってくれたおかげです」とリーダーらしく謙虚だった。

 速球対策に取り組んでいたおかげで、スピードに慣れていた。東東京大会5回戦で対戦するはずだった、足立学園・吉本祥二(3年)を想定した練習が功を奏した。最速149キロを誇る「下町のダル」対策として、約10メートルの距離から投手の全力投球を打つ練習を繰り返してきた。対戦は実現しなかったが、その効果はてきめんだった。

 1回戦注目の好カードに、4万4000人が詰め掛けた。2年前の夏4強の花巻東に打ち勝った。14残塁と課題は残ったが、「初戦が一番厳しい。この接戦を制したのは大きい」と松本主将は手応えをつかんでいた。【清水智彦】