<センバツ高校野球:智弁和歌山2-1宇治山田商>◇30日◇3回戦

 宇治山田商(三重)が3回戦で姿を消した。智弁和歌山(和歌山)を相手に健闘。4回、4番・木田恵太捕手(3年)が左翼ポール際へ先制ソロを放ったが、8回に同点とされると延長11回に力尽きた。先発・平生拓也投手(3年)は直球とスライダーのコンビネーションで強打の智弁和歌山打線から12奪三振。打線も試合終盤に再三チャンスを迎えたが、あと1本が出なかった。強豪をあと1歩まで追い詰めた戦いは、夏を目指すチームにとって大きな財産となったはずだ。

 1-1で迎えた延長11回。1死二塁からエース平生が投じたスライダーが高めに浮いた…。痛恨の失投を捕らえられた打球は左翼線で弾んだ。その瞬間、女房役・木田恵は天を仰いだ。二走・坂口が勝ち越しのホームインを見届けると、笑顔でマウンドの平生に声をかけた。スライダーを生かした巧みなリードで、今大会屈指の強力打線封じを支えてきたが、最後の最後で勝利の女神に見放された。

 強豪撃破を目指し、攻守でフル回転した。まずはバット。0-0の4回2死、木田恵は、智弁和歌山の左腕・岡田の内角寄りの直球を強振。打球は左翼ポール際に飛び込んだ。「感触はよかったです」。甲子園に入ってからの調子のよさを買われ中居誠監督(38)が初めて4番に抜てきした。その期待にこたえて、自身の公式戦初となる本塁打でチームに貴重な先制点をもたらした。

 もちろん、“本業”でもチームを引っ張った。「平生の変化球が良かった」と直球だけでなくスライダーの割合を増やした配球で智弁和歌山打線を翻ろう。6回には無死一、二塁で飛び出した二塁走者を刺し、直後の二盗も阻止。昨秋の公式戦6試合で盗塁を許さなかった強肩でピンチを救った。昨年秋に外野手から捕手にコンバートされた“新米捕手”は、懸命なプレーで平生をアシストした。

 智弁和歌山を相手に健闘したが、チームが抱える課題も浮き彫りとなった。8回に同点に追いつかれた後は毎回、走者を得点圏に進めた。延長10回には2死二塁で木田恵が、センターへ鋭い打球を放ったが、中堅手の好捕にサヨナラ打を阻まれた。チャンスであと1本が出ず競り負けただけに、中居監督は「また夏に勝てるチームをつくりたい。打撃力をアップさせたい」と悔しそうに話した。

 8強進出を決めた智弁和歌山にあって、宇治山田商業になかったもの…。それがここ一番での勝負強さだった。「ワンチャンスをものにしないと甲子園では勝てないことが分かった」と木田恵。攻撃の中心として守りの要として、この日の敗戦の持つ意味をかみ締めた。中居監督も「よく選手は接戦の展開に持ち込んだと思う。選手は求めていたことをしてくれた」。宇治山田商にとって、夏につながる1敗だった。【桝井聡】