<高校野球静岡大会:三島北6-4静岡大成>◇12日◇1回戦

 三島北が6-4で静岡大成を下し、56年ぶりの夏1勝を挙げた。延長10回表2死二、三塁、6番遠藤高史投手(2年)が強烈な遊ゴロを放ち、失策を誘発。勝ち越しに成功し、10回裏も2死満塁の危機をしのいだ。昨年度準優勝の静岡商は12-5で金谷を下し、7回コールド発進。静岡南は、4点を追う9回表に一挙11得点し、沼津工を相手に大逆転勝利を収めた。13日はシード校が登場。春季東海王者の常葉学園橘、前年度Vの常葉学園菊川が初戦に臨む。

 延長10回の勝ち越しの瞬間、超満員の裾野球場が揺れた。大歓声と悲鳴が入り交じる球場の中央で、三島北の遠藤がぐっと両拳を突き上げた。56年ぶりの校歌。笑いながら、泣きながら熱唱した。思わず2番まで歌いかけたところで、我に戻った。「あー、勝ったんだなぁ」。

 2回に先制しペースは握った。しかし、昨年同好会から部に昇格し、公式戦は未勝利だっただけに「経験不足から」(白鳥真利監督=47)中盤で浮足立ち、逆転された。「失うものは何もないし、OBの方からも試合前に楽しんで来いって言われてましたから」(大上恭介主将=3年)。何度ピンチを迎えても、チャンスを逸しても、ナインは笑顔でグラウンドに立ち続けた。

 延長10回表。2死二、三塁のチャンスに遠藤が「気合を入れて」打席に立った。笑顔だったが、打撃用手袋の中は汗でぐっしょりだった。「やっべ」。3球目のど真ん中直球を引っ掛けた。打球は遊撃へ。「とにかく必死で走った」。無の境地だった。気がついたらガッツポーズを繰り返していた。「勝った」。

 スタンドでは56年前の夏(1952年)で田方農に勝利したOB4人が声援を送り続けた。昨年、部に昇格してから1度も公式戦観戦を欠かしたことはない。56年前の夏、田方農戦でサヨナラ適時打を放った飯塚栄照さん(72=自営業)は、目を潤ませながら笑って言った。「うれしいね。うれしいよ。たまんないよ」。56年前と変わらない校歌を、後輩と仲間と静かに口ずさんだ。「甲子園だぞー」。スタンドから飛ぶ声に遠藤は思った。「もっと頑張らないとな」。三島北野球部の時計の針が、再び動きだした。【鶴智雄】