<高校野球奈良大会>◇11日◇1回戦

 奈良大会で、1人ぼっちの3年生が公式戦初勝利をつかんだ。高円(たかまど)が奈良女大付中教校に4-0で勝ち、9年ぶりの初戦突破。エースでチームただ1人の最上級生、岡部亮が完封で高校最後の夏に待望の1勝を挙げた。

 つらかった思い出を吹き飛ばす1勝だ。部員17人中ただ1人の3年生で主将。そしてエース番号を背負った岡部が5安打完封し、入学以来初の公式戦勝利をつかんだ。最高の笑顔で、下級生と抱き合った。

 岡部

 僕の代で1勝できてうれしい。ここに来るまで本当に大変だった。

 入学時の部員は1学年上の先輩6人と岡部だけ。ハンドボール部などからメンバーを借りて、やっと試合に出ていた。昨秋から必然的に主将。相談相手がいない。多勢の下級生に対して遠慮がちになり、自分を出せなかった。山本晋司監督(42)は「岡部は僕の言葉を伝えるスピーカー役だった」と当時を振り返った。

 変化は今年の春季大会に完敗して訪れた。岡部が後輩に「お前ら、口ばっかりやんけ!!」と初めて怒鳴った。殻を破ったと感じた山本監督が遊撃手から投手転向を勧め、岡部も受け入れた。105キロだった球速は3カ月弱で125キロに。サークルチェンジも覚えた。急造エースながら練習試合で勝ち始め、誰からも頼られる存在になった。

 この試合直前には、後輩から初めて千羽鶴を渡された。それは主将を信頼する証しだった。「絶対に勝たなあかん」と気迫で109球を投げ込んだ。もう1人じゃない。次に相まみえる強豪智弁学園にも、全力で立ち向かう。【大池和幸】