勝利を呼ぶ男がいるから、ミラクル劇が演じられる。阪神松田遼馬投手(21)が、虎史上初めて開幕から2日連続勝利投手となった。延長10回に3番手として登板。投じた11球はオール直球。炎の直球を投げ込み、2日連続のサヨナラ勝利を呼び込んだ。

 力強く腕を振る松田の登場が、劇勝へのプロローグだ。前日27日と同じく延長10回表に出番がきた。両チーム0行進の中でマウンドへ。力強い直球で勝利への道を切り開いた。

 「梅野さんが真っすぐのサインを出してくれて、ストレートで押してこいと言っているように感じた。だから僕も思いきり腕を振っていけました」

 先頭松井雅への3球、さらに代打ナニータへの4球、そして大島への4球。11球全て直球で3者凡退。1死から対峙(たいじ)したナニータのバットを148キロ直球で真っ二つにへし折った。真っ向勝負の右腕がつくった流れは、直後のサヨナラ勝利につながった。2日連続で歓喜の輪の中に笑顔の松田がいた。

 真っすぐと分かっていても打たれない。求め続けた直球だが、その持ち味が消えかかっていたときがあった。今年2月の2軍高知・安芸キャンプ。抑えるためには厳しいコースへ投げることが必要だと考えすぎて、動きが小さくなっていた。最速153キロの直球の威力は減少。「コントロールはアバウトでもいい。高めの直球で空振りを取れるんだから、もっとシンプルに投げろ」と久保2軍投手チーフコーチやベテラン捕手藤井、鶴岡から同じ指摘を受けた。

 シンプルに投げる-。動画サイトYouTubeで、速球を武器とする救援投手の映像を見て気づいた。阪神福原やオリックス平野佳、元阪神の藤川球児(レンジャーズ)…次から次へと関連動画として出る速球派リリーフの投げっぷり。「思い切り腕を振ることで、高めの球でも打者が手を出してくれるんです」。共通点はダイナミックな投球フォームだった。躍動感が球速表示以上の球威を与えてくれる。今、松田の頭にあるのはシンプルに、腕を強く振ることだ。

 「今日もたまたまですよ。前に投げていた投手が0に抑えてくれて。僕もいい流れを切らなかったのが良かったです」

 昨年までプロ3年間で1勝の男が、2日間で今季2勝目。中西投手コーチも「良かったな、特に遼馬」と、勝ち運まで手中にした若虎を称賛した。球団の歴史に名を刻んだ21歳。「勝ちより0に抑えられていることがうれしい」。若き剛腕は自身の白星よりも、チームの勝利だけを願い、腕を振る。【宮崎えり子】

 ▼松田が2試合連続で勝利投手。開幕戦から2試合連続勝利投手は73年平松(大洋)以来、2リーグ制後6人目。6人のうち2日連続は58年金田(国鉄)68年板東(近鉄)に次いで3人目。阪神では1リーグ時代の36年秋の若林、53年藤村隆に次いで62年ぶり3人目。