2015年も多くの選手が球界に別れを告げた。「さよならプロ野球」で新たな人生を歩み出した元選手を紹介する。

 山本昌、谷繁、和田、小笠原…。名球会選手たちを差し置いて、チームメートの多くが「最も印象に残った」と振り返る引退試合だった。2桁勝利4度の活躍で一時代を築いた中日朝倉健太投手(34)も今年、ユニホームを脱いだ。

 ある後輩投手が驚いた。「朝倉さんがこんなに泣くなんて」。9月20日、ナゴヤドームでの巨人戦。引退式のために登録されていた右腕の出番は8回に回ってきた。シンと静まりかえるブルペンには朝倉が鼻をすする音が響いた。コールを聞くと、最後はマウンドをきれいにならして一礼し、グラウンドへ。

 ベンチに続く階段を上がると、登録外の2軍選手らが廊下を埋め尽くしていた。もう止まらない。必死に涙をぬぐってマウンドに立った。相手は元同僚の代打堂上。視界がかすむ中、こん身の直球で捕邪飛に打ち取った。「泣かないでおこうと思ったけど全然無理でしたね」と苦笑いした。

 愛されるアニキだった。後輩たちを連れて食事にいき、熱く野球談議。支払いも気前よかった。豪快なキャラの分、胸に秘めた苦しさがあった。独特のすり足投法をめぐって首脳陣と衝突もした。最後は右手指の血行障害や、右肘痛に悩まされた。それでも「すごく幸せな野球人生でした」と笑顔で白球を置いた。

 編成担当に転身する。すでに秋の12球団トライアウトから稼働。「変な感じがしますね。なかなか慣れないですが、精いっぱいがんばります」。他球団の後輩選手たちに愛情をもって視線をそそぐ日々になる。

 ◆朝倉健太(あさくら・けんた)1981年(昭56)6月11日、岐阜市出身。屈指の本格右腕として愛知・東邦から99年ドラフト1位で中日入り。06年に13勝をマークするなど、4度の2桁勝利を含む通算65勝。通算成績は235試合に登板し、計1139回1/3を投げて防御率4・12。186センチ、94キロ。右投げ右打ち。