プレーバック日刊スポーツ! 過去の9月17日付紙面を振り返ります。2006年の1面(東京版)は中日山本昌の史上最年長ノーヒットノーランでした。

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<中日3-0阪神>◇2006年9月16日◇ナゴヤドーム

 中日山本昌投手(41)が16日の阪神18回戦(ナゴヤドーム)で史上73人目(84回目)の無安打無得点試合を達成した。奪三振5、無四球、許した走者は4回の失策による1人だけの「準完全試合」だった。41歳1カ月での達成は、95年オリックス佐藤の40歳11カ月を抜く史上最年長記録。大一番でのベテラン左腕の快投で中日は阪神に連勝、優勝へのマジックを「15」とした。

 山本昌の巨体が天に向かって伸びた。9回2死。最後の打者赤星は三ゴロ。ゲームセットの瞬間、井端が飛びついてきた。ベンチからは立浪が突進してきた。ブルペンにいたはずの岩瀬らリリーフ陣までいた。「みんなが出てきてくれて、ああ本当なんだな…と。信じられないような感じだった」。史上最年長ノーヒッターの姿が見えなくなるほどの歓喜の輪。まるで優勝したようだった。

 落合監督は帽子を取り、お辞儀をして出迎えた。「何も言うことはない。こんなゲームでノーヒットノーランやって…。オレも長いことやってて初めてだ。マサへのご褒美だろう」。勝てばライバルにとどめを刺す重要な試合で野球人生最高の仕事をやってのけた。

 夢のような97球だった。1回、赤星、関本が初球を打ってきた。「狙いはわかった」。阪神の積極策にも動じない。真骨頂といえる最速137キロの直球と100キロ台のスローカーブでタイミングを外した。4回森野の失策での1死二塁、唯一の「ピンチ」もシーツをスクリューで右飛。金本をスライダーで三邪飛。ほかには1人の走者も許さなかった。

 7回に、ベンチの雰囲気が変わってきたことを感じた。隣に座っていた谷繁がひと言も話し掛けてこなくなった。4回に失策を犯した森野が申し訳なさそうな顔をしている。それでも「まさかないよな…」。だが8回を投げ終えると、スタンドから大歓声が起きた。緊張感がピークに達した。

 運命の9回、マウンドへと歩き出した山本昌はいつもの験担ぎをした。グラブをはめた右手を脇に抱える。一塁線を踏まないようにまたぐ。自分で決めたマウンドに上がるまでの歩数を調整するため最後は小またになった。想像もつかないほど細やかな神経で、必死に快挙への階段を上った。

 「自分には縁がない記録だと思っていた…」。23年前の夏、日大藤沢高のエースだった山本昌は神奈川の地区大会で2ケタ三振を奪って完全試合を達成した怪腕。だが、プロで生き残るため“技巧派”になった。「僕はヒットを打たれても抑えるというタイプだから」。近藤、野口、川上…。後輩たちの快挙達成も、客観的にながめていた。

 だが通算487試合目。野球の神様は、緩急と制球力で生き抜いてきた大ベテランにご褒美を用意していた。189勝目は格別の味がした。「まぐれだよ。まぐれしかあり得ない。喜びすぎると次に影響しそうだから…」。通算200勝へもあと11と迫った男にも、成し遂げた快挙は、現実感がないほどすごいことだった。

 ◆山本昌(やまもと・まさ)1965年(昭40)8月11日生まれ、神奈川県出身。日大藤沢から83年にドラフト5位で中日に入団。米国留学で覚えたスクリューボールで頭角を現し、中継ぎ登板した88年8月30日広島戦(ナゴヤ球場)でプロ初勝利。93年には17勝で最多勝を獲得した。94、97年にも最多勝、93年には最優秀防御率、94年に沢村賞、97年に最多奪三振のタイトルに輝いた。96年に登録名を山本昌広から現在に変更。通算189勝138敗4セーブ。186センチ、87キロ。左投げ左打ち。趣味はラジコン。

 ▼山本昌が今年5月25日ガトームソン(ヤクルト)以来プロ野球73人、84度目のノーヒットノーランを達成した。中日の投手では02年川上以来で10人目。41歳1カ月での達成は、95年佐藤(オリックス)の40歳11カ月を抜く最年長記録。41歳以上の投手が「完封」したのも若林(阪神、毎日)大野(広島)に次いで史上3人目だった。プロ23年目も前記佐藤の19年を抜くスロー記録で、山本昌はこれが通算189勝目。57年金田(国鉄)が自身2度目のノーヒットを達成した時が180勝目だったが、189勝目は通算勝利数でも最も遅い。なお、100球未満での達成は90年柴田(日本ハム=94球)以来で、セ・リーグでは72年外木場(広島=93球)以来。

 ▼山本昌が許した走者は失策の1人だけ。許した走者1人だけで完封した「準完全試合」は今年6月8日斉藤和(ソフトバンク)以来42度目だが、走者の内訳は安打29度、四球10度、死球1度、失策2度。失策の走者1人だけで完全試合を逃したのは、1リーグ時代の48年真田(大陽)以来で、2リーグ制後は初めてだ。もちろん、準完全試合でも最年長記録になる。

※記録と表記は当時のもの