巨人が将棋の街、山形でヤクルトとの対局を制した。桂馬を自称する長野久義外野手(32)が同点の7回に18戦ぶりの3号ソロで決勝点をたたき込んだ。高橋由伸監督(42)は接戦の展開でセットアッパーのマシソンを7回2死から投入するなど駒を巧みに操り“棋士”として勝利に導いた。

 読み切った一打で王手をかけた。同点の7回。長野には1手先が見えていた。「風が吹いていたので、当たったら入るかなと。振り切っていこうと」。球場の低いフェンスと上空の追い風は把握済み。石山の外寄り147キロ直球をパチンと強振。勝敗を決する3号ソロを右翼席に打ち込んだ。

 将棋の街、山形で自身に託された役割を完遂した。「自分を将棋の駒に例えると? 桂馬ですね。飛び道具だから」と長考の末に自己分析。8種類で唯一、他の駒を飛び越えられる特殊な駒に親近感を抱いた。序盤の3回。先発由規の外角スライダーを引っ張り、左前へチーム初安打を放つ。右方向にこだわらない一打が、戦局を動かす最善手となった。好機を広げ、試合も決める、唯一無二の持ち味で盤上を跳びはねた。

 指揮官と棋士。状況に応じて手駒を操る。通ずるものがある。試合前、高橋監督は29連勝を達成した藤井四段について感嘆の声を上げた。「本当にすごいと思う。実力があって、運もあるかもしれないけど同じプロとして対戦して勝ち続けているわけだから。勝負の世界で勝ち続けることは本当に難しい」。理想とする手駒は、飛車が成る龍。「縦横に加えて斜めも行けて万能。監督は駒を動かす方だけど、選手として求める理想は万能なのでは」。どの選手も“成れる”。1つの役割にとどまらない活躍ができると信じている。