若虎の意地が、劇勝への扉をこじ開けた。阪神中谷将大外野手(24)が3回に豪快な先制2ラン。1打席目に好機で凡退していたが、やり返した。さらに9回2死からは左安で出塁し、サヨナラ機の糸口をつくった。新助っ人ロジャースの加入で、競争は激化するが、ポジションは渡さないとばかりに躍動した。

 筋書きのないドラマで文句なしの助演男優賞だ。サヨナラ劇を演出したのは中谷だ。3点差を追いつかれた直後の9回2死走者なし。追い込まれて5球目。マシソンが投じたスライダーをとらえ、左翼線に安打を放つ。糸原の殊勲打で決勝ホームを踏むと、興奮の輪に消えた。ハイタッチ、抱擁…。ウオーターシャワーでヘルメットは光った。

 「勝ちにつながる打撃をできたので良かったです。つないで、つないでいこうと思っていた。どうなるか分からないので…」

 重苦しいムードを打ち破ったのもスラッガーのバットだ。3回2死一塁。。山口俊の2球目直球は内寄り高めへ。心の中で叫ぶ。「来たっ!!」。強振するとライナーで左翼ポール際へ。チーム単独トップの今季9号2ランで先制した。貧打で巨人に連敗している状況。ナインを鼓舞する一撃になった。

 「(狙い球を)絞っていたわけじゃないけど、やられていた…。同じ失敗をしないように。1打席目のチャンスで速球を空振り三振してしまったので、やられた球種を、しっかりとらえることができて良かった」

 1回1死満塁の絶好機では、内角高め速球に空振り三振していた。2度も屈するわけにいかない。同じ球種、コースにターゲットを定め、完璧に仕留めた。

 心身を整えてプロ7年目を過ごす。甲子園のクラブハウス。ロッカーは驚くほど整理整頓されている。グラブを整然と並べる。アンダーウエアをきちんと折り畳んで並べる。打撃用手袋なども丁寧にそろえる。豪快なイケイケ系に映るが、繊細な心が宿る24歳だ。試合前から負けん気を刺激された。雨がたたきつける室内練習場。フリー打撃で隣り合わせたのは新外国人のロジャースだ。同じ一塁を守る最大のライバルの前で活躍した。金本監督は「(3回の)いい意味での切り替えは1年間やっていく中で、プロ野球選手は大事ですから」と評する。満塁三振後の爽快アーチ、サヨナラに導く渋い軽打…。少しずつ主力の顔になってきた。【酒井俊作】