この男のバットを待っていた。西武中村剛也内野手(34)が4回無死一塁から25号2ランをバックスクリーンにたたき込んだ。8月4日ソフトバンク戦以来、37日ぶりの快音。背中と腰の張りによる離脱からの復帰後、14打席目の初安打が大きな弧を描いた。高めの145キロを捉えた“らしい”アーチにも「ちょっとこすったので、どうかなと思ったんですが…。たまたまじゃないですか」と淡々とうなずいた。

 コメントは素っ気なくても、試行錯誤の末の1発だった。1軍に合流した6日。バットのグリップエンドにテーピングを施し、タイ・カッブ型にした。秋山、浅村らが扱う形状。「自分は今まで使ったことがない。いい打者が使っているし、いろいろやってみようと思って。いい感じでした」。試合前練習では秋山のバットも使用。バットコントロールに重要な左手の薬指と小指がしっかり掛かる感覚を再確認した。この日の試合は元のグリップに戻したが、常に進化を求める姿勢も豪快弾につながった。

 中村らしさは打球の軌道だけではない。9月10日は麻里恵夫人の誕生日。結婚した08年から、これで同日に放ったアーチは8本目となった。今年はちょうど結婚10年目。「毎日打って、と言われてますから」とここでも素っ気なかったが、普段はもらわないホームラン球をバッグにしまった。

 家族への思いも込めた本塁打で上げた復活ののろし。まだまだ満足はしていない。四球で出塁した6回は、源田の右前打で二塁から一気に決勝のホームを駆け抜けた。抜群のスタートを切っての好走塁も「当たり前のプレー。出来ることはしっかりやらないと」とさらりと言った。「何とか(打撃の)状態を上げていきたい。ここから頑張ります」。クライマックスシリーズ、そしてその先の戦いへ、やはり中村のバットは欠かせない。【佐竹実】