七夕の夜「今年のヤクルト」は事実上の終戦を迎えた。守護神に配置転換されたばかりの小川泰弘投手(27)が5点リードを守れず、まさかの6失点で逆転負け。真中満監督(46)が最後の勝負手として打った配置転換も、実を結ばなかった。万策尽き、悪い流れは球団史上最悪の年間96敗へと続いた。

 その1球を投げる前から勝負は決まっていたのかもしれない。7月7日、ヤクルト小川は神宮のマウンドで止まらない汗を拭い続けた。2点リードの9回2死一、三塁、打席には代打広島新井。「普段は絶対に思わないのに、打たれるのがよぎった」とカウント2-1からの4球目、外角への145キロ直球を完璧に捉えられた。ライナー性の打球はバックスクリーン直撃の逆転3ラン。真っ赤に染まる総立ちの左翼スタンドを見つめ、ぼうぜんと立ち尽くした。

 守護神として初めて上がる9回は景色が違った。「先発の時と違う。緊張感がすごく強くて自信が持てていない状況だった」と5点リードでも浮足立っていた。マウンドを足でならし、投球練習を行うが指先の感覚がハッキリしない。先頭打者バティスタへの初球でソロを浴びる。「狙ったとこより内に入る。球がぼやけた」と制球が利かなかった。

 不安が広がっていた。先発で不調ならば、中継ぎにスイッチすることができる。しかし「後ろがいないという状況が守護神。ブルペンを見ても誰もいないというのは分かっていた」と交代を求めてベンチを見ることも出来ず、ブルペンで誰も準備していないということが重圧を高めた。

 焦りは悪循環を生む。1死から菊池にもソロを浴び、丸へは四球。鈴木を中飛に抑えて2死一塁も松山に適時二塁打を浴びて、2点差に迫られる。「何とかしないといけないと分かっていたけど、どうにもならなかった。力む、抜けるのサイクルに入った。きつかった」と続く西川に内野安打を許し、9回2死一、三塁。代打新井を迎えて「守護神として立ち向かわなければいけないのに勝てていなかった」。不安と焦りが、新井に打たれるイメージを生んだ。

 準備不足も明らかだった。6月21日、左内腹斜筋の肉離れで調整をしていると高津2軍監督から中継ぎ起用が伝えられた。「万全でないし、早いなと思った」。体の状態はまだ7割程度だった。それでも「戦力になりたいという思いがあった」と連敗の続くチームのため転向を決めた。2軍で2度の登板を終えると6月30日の阪神戦(甲子園)で1軍復帰した。8回を3人で抑えたが、9回に抑えの秋吉が負傷し緊急降板。次の試合から守護神となることが、いきなり決まった。

 今季限りで退任した真中監督は「小川の抑え。あれが最後の勝負手だった」とシーズン終盤に振り返った。エースの守護神起用が、低迷するチームの起爆剤になればと期待したものの、結果は失敗。打つ手はなくなった。これがチームの実質的な終戦になった。

 小川は後半戦から先発に再転向。4勝を挙げた。抑えの経験を「あれが精いっぱいだった。この経験を糧にしていかないと。リリーフの方の気持ちも少し分かった。だからこそ、先発として長いイニングを投げないといけない」と振り返る。球団最悪の96敗。得たものは、来季へつながる悔しさだった。【島根純】