阪神糸井嘉男外野手(37)が目いっぱいに引っ張った打球は右翼ポール最上部付近を通過。コンタクトから約5秒の滞空時間を経て、スタンド中段に吸い込まれていった。初回に中日に2点を先制された直後、2死二塁のチャンスで超人の一振りが試合を振り出しに戻した。8月21日の中日戦以来となる16号2ラン。キャプテン福留不在の甲子園で、もう1人の頼れる男のバットが猛虎打線に火をつけた。

「明日ちゃんと(勝ち星を)取れるように頑張ります」

バットだけではなく、足でも虎党を魅了した。4回、大山が3ランを放った直後の打席、1死走者なしから小熊が投じた真ん中高めの変化球にくらいつき、遊撃内野安打。マルチ安打を記録し、通算1500安打まで残り8本とした。直後の陽川の打席では二塁を陥れ、チームトップの今季19個目の盗塁も成功させた。

6日の広島戦(マツダスタジアム)の5回、右前タイムリーを放った直後、一塁をオーバーランして戻った際に右足ふくらはぎの張りを訴え、途中交代していた。それでも出場を継続。この日はそんな心配を吹き飛ばすように、打って、走って、守った。金本監督は今日の勝利のポイントについて問われ、「大山の3ランが一番だと思いますけど、その前に初回に点を取られた後、糸井がすぐ2ランで返してくれた。それでまたズルズルいかなかったホームランかなと思います」とたたえた。

6月30日ヤクルト戦で死球を受け、右足腓骨(ひこつ)の骨折が完治していない状況でもチームの勝利のため、懸命に体を張った。8月は3割8分7厘、3本塁打、15打点と圧倒的な数字を残した。反撃を期す勝負の秋も、4番がチームをグイグイ引っ張る。【古財稜明】