悔し涙の半年後は-。順調に新人合同自主トレをこなすロッテのドラフト1位、佐々木朗希投手(18=大船渡)に17日、2人の熱い視線がそそがれた。

ロッテ担当の金子真仁記者(39)と、佐々木朗に会うのは昨夏以来となる東北総局の鎌田直秀記者(44)。甲子園の夢が破れた岩手大会を「日刊KKコンビ」として取材した2人が、この半年での“令和の怪物”の変化をあらためて観察した。

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19年7月25日。岩手大会決勝で敗れ、甲子園の夢破れる。100人超の報道陣が待つ沈黙の部屋に、大船渡・佐々木がうつむいて現れた。気丈に対応するものの目は伏せたままで、瞳に光はなかった。

鎌田 2年生の時はそうじゃなかった。騒がれすぎて、人から目をそらすタイプの選手になってしまっていた。今日は半年ぶりなのに、練習の合間に会釈してくれてビックリした。

金子 去年の春から夏まで、あいさつを“先制された”のは1回だけ。今は違う。あいさつを交わす時の目も明るい。

照れ屋だが情に厚い、そんな港町気質を受け継いだ。「ロッテの佐々木朗希」は上京から10日、割とすんなり新生活に慣れているようだ。リミッターを外したのか。気持ちの余裕は取材対応にも表れる。

鎌田 質問に分からない部分があると、その記者に問い返している。しっかり誠実に答えたいという気持ちを感じた。

金子 以前は口数も少なかった。今は回答が一言で終わることはないし、自分から話を広げるホスピタリティーさえ感じる。

報道陣の「奥川君のニュースで…」との問いかけに「ヒジ(のこと)ですか?」と自ら反応した。ヤクルトのドラフト1位、奥川恭伸投手(18=星稜)が16日、右ひじの軽い炎症でノースロー調整になった。

「夏の大会で頑張っていたので、その疲労が出たのかなと。でも、あの、走ることに関しては飛び抜けているので」。

属性や居場所が変わっても、本質は「大船渡・佐々木」のまま。あこがれの世界で成功するため、己を磨く毎日だ。体にも変化が見え始めている

鎌田 高校の時より、お尻がプリッとした。“ケツ筋すげ~”と思った。

プロで通用する肉体へ、寮では連日、たっぷりの食事を取る。入寮前の「どちらかというと小食なんです」という心配も杞憂(きゆう)に終わりそうだ。

鎌田 技術的な話だと、投げる時の右手の後ろへの振りが、コンパクトになったかな。

後ろを小さくし、耳をかすめるように腕を振り、高いリリースで投げ下ろす“マウエ投法”で、キャンプへと肩を作っている。

金子 キャッチボールのフォームが明らかに変わった。ひじへの負担を軽減し、プロで成功したい明確な意思を感じる。

投げずに負けた岩手大会決勝。U18W杯では血マメ降板。163キロ右腕のマウンド不在に、世がざわついた。半年後のこの充実ぶりは、想像しづらかった。

金子 夏の騒ぎが半年前とは思えないほど、表情や所作が一変した。エネルギーが前向きになった。

鎌田 カメラを向けられると硬くなった表情も、今では笑顔もある。家族や友達といるような感覚で、プロ野球に少しずつ溶け込んでいるなと思った。

ここで、まさかこんな形で、彼の高校野球は終わってしまうのか-。半年前、私たち取材班にもズシリと残った徒労感を消し去ってくれるほど、令和の怪物の“変身”は爽快だ。