プロ野球開幕を放送席から実況アナウンサーが伝えた。無観客開催を強いられる今、野球中継の使命は例年以上に増す。歓声もなければ鳴り物もない異例の開幕戦。各局のアナウンサーが、思い思いのフレーズで2020年、プロ野球開幕を告げた。

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日本テレビ田辺研一郎アナウンサー(42)は「15秒の沈黙」にプロ野球を愛する人々の覚悟を込めた。巨人-阪神戦の地上波中継。86年の歴史の幕開けとなる初球の直前、黙した。カメラが球審の「プレーボール!」の声が響く絵を抜く。投球、そして一振り。しばしの空白を置き、言葉をつむいだ。

「菅野の152キロのストレートを糸井が打ち返しました。白球をはじき返す球音が日常に戻ってきました」

12日の練習試合日本ハム戦では開幕戦の初球を想定して言葉を止め、どう伝わるかを確認した。開幕数日前には菅野にメールを送った。「1つだけ教えてほしい。今年も帽子の裏に覚悟と書くのか?」。その2文字を書くことを確認し、準備を整えた。

黙る。実況には怖さが伴う。だが、ありのままを伝えるすごみを知る。11年。サッカーの東日本大震災の復興支援チャリティーマッチ。ゴール後、踊るカズを前に静まった。「今、起きている一番熱を感じるものをそのまま届けたい」。20秒ほど、言葉を止めた。そして発した。「カズはやはりカズでした」と。

時は流れ、異なるスポーツで再び、沈黙を選んだ。「いろんな覚悟が込められた1球だと思う。菅野選手自身も、そして球界全体の思いが詰まった『プレーボール!』からすごいものが始まったぞ、という気持ちになってもらえば」。無観客ならではの音。だけど無観客ではないような高揚感。相反するが、新しい価値が未来の野球に存在する。【広重竜太郎】

○…テレビ朝日の三上大樹アナウンサー(34)が、無人の観客席の意味を再認識した。「球場や会場にお客さんが『いない』ではなく『来たくても来られない』ということをしっかりと胸にとどめたい」。15日に110日ぶりに無観客試合で開催された新日本プロレスの実況を務めた。「どういうテンション、トーンで実況するべきか不安だった。でも選手の熱気に乗せていただいた」。競技、ジャンルは問わない。選手の熱気を伝えるスポーツ実況を目指す。

<それぞれの第一声>

ソフトバンク-ロッテ(NHKBS1・早瀬雄一アナウンサー)「2020年プロ野球、福岡ペイペイドーム、いよいよ開幕します。(1回1死、角中の2球目の見逃しに)いやあ、いい音がします。153キロ」

オリックス-楽天 J SPORTS3・大前一樹アナウンサー 「1回表、ゲームが始まります。オープニングゲーム。2020年。野球が戻ってきました。初球、まずはスライダーから入ってきました」

西武-日本ハムフジテレビTWO・谷口広明アナウンサー 「2020年シーズンです。西本球審の手が高らかに上がりました。初球。ストライク!」

ヤクルト-中日 フジテレビONE・田淵裕章アナウンサー 「スタンドにファンの姿がありません。音色もありません。待ちに待った2020年プロ野球。プレーボールがかかりました」