東京オリンピック(五輪)の中軸を担う面々が、持ち味をいかんなく発揮する本塁打を放った。

広島鈴木誠也外野手(25)楽天浅村栄斗内野手(29)ソフトバンク柳田悠岐外野手(31)ヤクルト村上宗隆内野手(20)。それぞれが試合の潮目でアーチをかけ、チームを勝利に導いた。20年7月29日は、福島あづま球場で野球競技の初戦が行われていた日。日本球界最高峰に君臨するバットマンたちが、1年後も暴れる。

   ◇   ◇   ◇

何かが変わる予感が、表情を和らげた。0-0の6回2死一塁。広島の4番鈴木誠は、中日松葉の浮いたチェンジアップを豪快に振り抜いた。高く上がった打球はセンターバックスクリーン右に着弾。珍しく笑顔でダイヤモンドを1周すると、本塁で迎えたピレラと手裏剣ポーズ。ベンチで迎えるチームメートにはパンチの連打で祝福に応えた。笑顔の7試合ぶり9号2ランが、試合を決める1発となった。

強引に振り抜いた打撃を「適当です。はちゃめちゃです」と振り返った。中日先発松葉に2打席目までタイミングが合っていなかった。2回の1打席目は1球を振らずに3球三振。4回の2打席目は初球を引っかけて遊飛に倒れた。迎えた3打席目は「開き直り」で臨んだ打席だった。佐々岡監督は「あそこで4番の仕事をしてくれた。あれで投手が踏ん張って、いい勝ち方ができたと思う。誠也も意地があったと思う」とたたえた。

9試合連続安打で打率3割5分としながら、本人の中では、調子は良くない。試合前練習では特打を行い、打撃マシンの1メートル前に立って感覚を取り戻そうとする姿勢が見える。数字ではない。ただうまくなりたいという向上心。昨オフも忙しい合間を縫ってトレーニングするため、一般客も利用する低酸素施設を利用することもあった。

下位に沈むチームとともに主砲も苦しんでいた。「その中で何とかしないといけないというのが、(試合に)出ている人間の責任だと思う。今はとにかく我慢で、四球でも、1日1本でも何とか粘り強く出せれば」。打席の中で考え方を変えながら臨み、ようやく3打席目に1発が生まれた。「どこかでこうやっていろいろ考えて打席に立つことで、吹っ切れるときがくるので、それが今日の本塁打だったのかな」。チームを最下位から浮上させるアーチは、鈴木誠自身も復活の1発となった。【前原淳】

◆侍ジャパンの中軸 今年、予定通り東京五輪が行われていれば3番柳田、4番鈴木、5番浅村の並びは最有力候補だった。稲葉監督の戦力構想の根底には、昨秋に優勝したプレミア12のメンバーがある。鈴木は4番でMVPに輝く大車輪の働きを見せ、信頼感は絶大。浅村も5番で勝負強さを発揮した。プレミア12は不在だった柳田は、18年の日米野球では4番として機能したが、機動力もあり、3番は座りがいい。秋山のメジャー移籍で1番の候補には坂本が挙がる。1点勝負の国際大会で2番はつなぎ役を重視して菊池涼と考えればバランス的にも3番には左打者が欲しい。柳田が適任になる。稲葉ジャパンの常連ではないが岡本、村上も、逆転五輪代表入りから一気に中軸も目指せる成長速度。出塁率の高い近藤も選択肢に入りそうだ。