記念すべきプロ初勝利をつかんだ相棒は、深紅のグラブだった。ヤクルトのドラフト2位ルーキー吉田大喜投手(23)が、球団の新人で白星一番乗り。6回6安打2失点。落ち着いた表情で、球速以上に手元で伸びる直球と低めに集めた変化球で、5回まで無失点に抑えた。87球を支えたグラブは、父英樹さんが大阪府茨木市で営む野球専門店「すみれスポーツ」の物。もちろんプロで使用する選手はただ1人。「自分が活躍して宣伝になればと思う。よかったです」と笑った。

「社会人で続けようと思う」。日体大3年時、実家に帰って父に告げた。大冠3年時もプロ志望届を出したが、ドラフトにはかからず。大学でも一時は諦めた。しかし1学年上の松本(現西武)、東妻(現ロッテ)がプロ入り。身近な先輩の活躍も、刺激になった。

一度だけ、父からサプライズを贈られた。大学4年の夏、大学日本代表に初選出。グラブを作ってくれた。「JAPAN 19」と日の丸の刺しゅう入り。日米大学野球では主に救援として成績を残し、評価を上げた。大喜の「ありがとう」の気持ちが込められたグラブは今、店先に並ぶ。

英樹さんは、初勝利の瞬間を速報サイトで見届けた。ここまで3試合はすべてテレビ観戦していたが勝てず「見たら負けるかなと思って、ゲンを担ぎました」。試合後、ウイニングボールについて息子は「お父さんがやっているお店に飾るように、家に送りたいと思います」。英樹さんは「そのように、飾ります」。親子の野球物語は、続いていく。【保坂恭子】

▽ヤクルト高津監督(吉田喜について)「苦労して若い人や、新人に結果がついてくると、チーム自体も活性化する。本人もチームも元気になってくるといい」

▽ヤクルト古賀(22歳の誕生日に、吉田喜を好リード。ヒーローインタビューに乱入し)「要求した所に投げてくれたので、吉田さんのおかげです。オレ、誕生日やで~!」

 

▽日体大・古城監督(OB吉田喜の勝利に)「球速以上に手元で球が伸びているように見えた。大学時代も緊張からか初登板はよくなかった。プロ初登板もよくなかったが、投げるごとに慣れてよくなっていた。球威だけでなく、変化球の低めの制球など、成長させていただいている」