今季限りでの現役引退を決めた阪神藤川球児投手(40)が1日、兵庫・西宮市内で引退会見を行った。「1年間、体の準備が整わないのはプロとして失格」と決断理由を語ったが、「僕は僕でもう1発、なんとか」と1軍戦力に戻る決意を明かした。目標はあと5に迫る日米250セーブではなく、「優勝すること」ときっぱり。98年の入団会見時に宣言した3度目Vで有終の美を飾るべく、大逆転Vを信じて体を仕上げる。

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プロ生活を振り返る質問が出ると、藤川はうつむき、涙をこらえた。約2分にわたる沈黙の時間。「いつ、つぶれてもいいという覚悟でやってきた」。これまでの苦しくも楽しい日々が頭をよぎった。

今季は開幕から抑えを託されたが、登板11試合で1勝3敗2セーブ、防御率7・20。蓄積した疲労から右腕のコンディションが悪化し、本来の投球を見せられなかった。「1年間、体の準備が整わないというのは、プロとして失格ですから」。すがすがしいほどに決断理由をきっぱり告げたが、右腕の現状について多くは語らなかった。「今シーズンに限っては、相手を倒す可能性があるボールは投げられると考えました」。チームのために戦う力が残っている。まだ、弱みは見せられない。

今季達成が期待されている日米通算250セーブ。だが、個人の偉業よりも大切なものがあった。「タイガースが優勝することですよ。僕が入った時に3回優勝するって言って、2回しかしてない。10年で3回だから、今(プロ)22年で3回ぐらいチャンスが来ているんですよ」。98年の入団会見時に「10年で3回優勝」と宣言した。03年と05年以降、優勝から遠ざかり、あと1回の公約を達成しないままには終われない。もちろん、自身がその戦力になるつもりだ。「後輩たちがやってくれていますし、僕は僕でもう1発なんとか、と思ってますね。頑張りますよ。みんなと一緒に」。そう力を込めた。

チームはこの日、勝負の13連戦初戦を迎えていた。4日からは6・5差で追う首位巨人との4連戦。「誰が何といってもこれだけは譲れない」と闘志を燃やしてきたライバルだ。「僕は2軍…、3軍にいるんですけど、今から甲子園球場に行って、気合入れ直してきます。みんな頑張ってるけど、巨人を倒すためにはその頑張りじゃ足りないから、自分も刺激いれてくるんでね」。1軍で戦う厳しさを誰よりも知るからこそ、温かく厳しいゲキだった。

「甲子園球場が母親なら、阪神タイガースは僕にとって父親ですね。1回離れていましたけどね、そんなもんでしょ、子供って(笑い)」。いつも声援を送ってくれたファンは「家族」と表現した。甲子園で育った球界屈指の火の玉リリーバーは、家族の笑顔のために戦い抜く。【磯綾乃】