阪神大山悠輔内野手(26)が劇的な逆転サヨナラ15号2ランを放ち、3連勝で1週間ぶりに首位を奪い返した。

勝った方がセ界のトップに立つ伝統の一戦第2ラウンド。1点ビハインドでこのまま敗戦かと思われた9回無死一塁。守護神ビエイラを完璧にとらえて左越えに運んだ。試合は阪神が5回に梅野の2ランで逆転すると、巨人が6回に岡本の2ランで再逆転。元4番の意地が、手に汗握る首位攻防の空中戦を鮮やかに締めた。

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大山は豪快にフォロースルーを決めた直後、夜空に右手を伸ばした。確信めいたほほ笑みと共に、ゆっくりと走りだした。どよめきと拍手の嵐が収まらない中、ホームベースで待つ仲間の輪に飛び込む。びしょぬれの破顔に、主将の安堵(あんど)がにじみ出た。

「いや、もう…死ぬ気で打ちにいきました」

1点を追う9回裏無死一塁、1ボール。「なんでもかんでも振ればいいというわけでもないですが、積極的に振ることは決めていました」。ビエイラの内角156キロ直球を左翼上空に打ち上げた。逆転サヨナラ2ラン。「その一打で勝ったというのが1番うれしいです」。チームの首位再浮上に何より心が躍った。

日本球界最速の166キロ右腕さえも打ち返す、力強いスイング。それは16年秋、阪神がドラフト1位指名に踏み切るきっかけとなった長所でもある。「タイガースは速いボールに弱い。速球に強い選手を探してくれませんか? 」。当時の金本監督から要望を受けたスカウト陣が選んだ大砲が、白鴎大の4番大山悠輔だった。

5年前に統括スカウトを任されていた佐野仙好氏は「第一印象がすごくてね」と初視察した練習試合、創価大戦を思い返す。最速156キロ右腕と騒がれていた田中正義(現ソフトバンク)の直球をいとも簡単にセンターへ強打-。周囲を驚かせた天性の特長は今も、勝負どころで打者大山の土台を支えている。

1日中日戦では決勝打。前日3日巨人戦では起死回生の同点二塁打。そして、この日は逆転サヨナラ弾。不調時の悔しさを晴らす働きで3連勝を先導し、今度こそ本格復調の気配が漂う。矢野監督も「全員で勝つというのが僕たちの野球。その中で悠輔が帰ってきてくれると頼もしくなる」と声を弾ませる。

5戦ぶりにドラフト1位佐藤輝をスタメン復帰させ、1番近本、2番中野の並びに戻した一戦。6番に打順を上げた主将に劇的弾が飛び出し、いよいよムードは最高潮だ。

「今日が良くても、明日はまたゼロから始まる。油断もスキもないようにやっていきたい。いい結果の勢いそのままにやっていけたらと思います」

歓喜の直後、主将は冷静にナインの総意を代弁することも忘れなかった。狙うはもちろん、首位攻防3連戦3連勝しかない。【佐井陽介】

▼大山のサヨナラ本塁打は19年8月10日広島戦、20年11月4日ヤクルト戦に次いで3本目。阪神選手の3年連続サヨナラ本塁打は74~76年田淵、13~15年福留に並ぶ球団タイ記録。阪神選手が巨人戦で逆転サヨナラ本塁打は62年9月23日藤本、67年9月10日藤井、88年9月11日田尾に次いで33年ぶり4人目。

▼阪神が巨人戦の同一カード3連戦の2戦目での連敗を4で止めた。過去4試合は先発防御率が6・26と低調だったが、この日は6イニング1/3を自責点3と粘ったガンケルが勝利をアシストした。なお、今季このカード1戦目はここまで6戦全勝。2戦目に勝てないことが、波に乗れない要因になっていた。3戦目も1勝4敗と負けが込んでいるが、今回はどうか。勝てば3年ぶりに巨人戦同一カード3連勝になる。