ヤクルトが、6年ぶり8度目のセ・リーグ優勝を達成した。

ヤクルトが首位へ駆け上がった夏の終わり、9月14日から13戦負けなしの快進撃の日々に声出しをしたのがベテラン嶋基宏捕手(36)だった。試合前の声出しは勝つと翌日も担当するのが習わしで、嶋は連日チームを鼓舞した。

   ◇   ◇   ◇

ある日は、試合に向けて真剣な話をしたあと「そろそろ秋が来る」と切り出した。「秋と言えば、読書の秋、芸術の秋…」。そこまで話したところでオスナとサンタナを見て「おい、そこの2人、どうだ?」と聞いた。すると2人がそろって「サンマー」とこたえた。いつの間に仕込んだのか、助っ人コンビのあまりのそろいっぷりに試合前のベンチは和やかな笑いに包まれた。

さらに、連勝が伸びたある日は「毎日、こういうのをやるのは大変なんだ。でも、日本には毎日続けたことでギネスにも載っている偉大な人がいるの知ってるか?」とやった。オスナとサンタナは「タモさーん」と声をそろえてまたまた笑いを誘った。嶋は「毎日コツコツやることが大事。積み重ねていきましょう」と両手を打ってナインを送り出した。

ネタはどんどん磨き上げられていく。別の日「外国人2人がタクシーで家に帰るんだけど、そのときに日本語を勉強しているそうだ」。そう言ってポケットから紙を取り出した。「これはなんですか?」と見せたのは「文」のマーク。地図記号でいう学校だ。ナインがそうこたえる。「じゃあこれは?」と次の紙はホームベースの中に十字があるマーク。「病院」との声が上がる。「1つだけ、わからないものがあるんだけど、これは分かるか?」と次の紙。オスナとサンタナに「卍」のマークを見せると2人は同時に「シキタ」とこたえた。見逃し三振のコールで卍ポーズを決める敷田球審を知っていたのだろうか? 13試合の中でも一番の爆笑が生まれた。

   ◇   ◇   ◇ 

嶋がチームのムードを盛り上げるために披露したネタの数々は、助っ人の2人をチームの輪に溶け込ませる効果もあった。一枚岩で臨めば絶対大丈夫という高津監督の目指したチームづくり。その一翼を担った。声出し中の9月22日には今季初の首位に立った。まさに伝説の声出しだった。