異色のDeNA小杉陽太新コーチ(35)が、日本球界に新たな道を切り開くかもしれない。16日、横須賀市内での秋季トレーニングを視察し、取材に対応。自らの役割を「データをしっかり選手に最後まで落とし込んであげる。ただ数字を見せているだけでは、なかなか伝わらない部分が今まであったと思う。しっかり選手に理解してもらって、かつ選手の感覚と融合して、活動してもらうことが求められている」とした。「データ」と「野球の技術指導」の橋渡し役を狙っている。

小杉氏は二松学舎大付高から亜大中退-JR東日本と進み、08年ドラフト5位で横浜に入団した元右腕投手だ。通算86試合で6勝9敗2ホールドが、選手としての実績だ。だが、17年の引退後から急激にデータなどに対する知見を集めた。広告代理店業などの株式会社「l'unipue」を設立。代表取締役を務める一方で、2年ほど前からアマチュアの指導を始めた。

1台70万円以上する自前の投球分析機器の「ラプソード」を高校、大学などに持参し、知人の持つハイスピードカメラを組み合わせた動画をつくった。これで「選手がガラッと変わる姿を何人も見てきた」。指導する喜びを知った。「研究機関や記者の方に指導を仰ぎながら、自分の中でも知見がついた」と自信を深めていた。

現役時代からメジャーリーグは好きだった。MLBには「スタットキャスト」という回転数などの投球データを公開するシステムがあるが、これを「ちょろっと気になった時に」見る程度だったという。ドジャースの抑え投手で、カットボールに特徴がある「(ケンリー・)ジャンセンが投げているボールがどういうデータなのか」など、興味は局所的だった。

データの魅力にはまっていったのは「ファンタジーベースボール」が影響している。これはGMとして仮想チームをつくって競い合うゲームなのだが、セイバーメトリクスに精通することが勝利の鍵となる。小杉氏は仲間内でやっていたというが、「WAR」(代替選手よりどれぐらい勝利数をもたらすかの指標)や「UZR」(守備力の指標)などを知り、興味と知識の範囲を広げていった。

MLBでは、野球経験のない分析コーチ(ジョナサン・エリックマン=レイズ)が在籍している。既にコーチの条件は、現役時代の実績と関係ないどころか、野球経験さえも問われない時代に突入している。小杉氏はアマチュア球界のエリートコースを歩み、プロでも6勝を挙げているため同列には扱えないが、データ分析と指導力を買われた点は共通点といえる。

小杉新コーチは「一番難しいのは、データを技術に変換する部分」という。だからこそ、データに精通しながら、1軍の投手経験もある小杉氏に白羽の矢が立ったともいえる。日本球界のパイオニアになるのか、注目だ。【斎藤直樹】