1人と1羽。その間には、特別な空気が流れていた。

試合開始直前、安室奈美恵の登場曲がかかる中でヤクルト石川雅規投手(41)がベンチを出る。マウンドに歩いていく途中で、球団マスコットのつば九郎とグータッチをかわした。言葉がなくても、伝わる気持ち。つば九郎は大きくうなずいて、石川をマウンドに送り出した。

日本シリーズの舞台で、ベテラン左腕は真骨頂の投球を見せた。球速ではなく、制球力で勝負。丁寧に低めに投げ、6回を被安打3の5奪三振、1失点(自責0)。自身にとって初めての日本シリーズ勝利。チームにとっても、日本一に王手をかける大きな1勝を挙げた。

チーム最年長になる石川とは20年来の付き合いになり、大親友だ。つば九郎は、以前のブログで「わかりあえる、おとことおす」と関係性を表現していた。

この日の試合後アップされたブログには「かつおくんの、ふだんをしるおす。かつおくんの、ひといちばいがんばるすがた。だれにもみせぬ、きどあいらくを、ながくちかくでみているおすには、たまらない。もう、たまらん」とつづられていた。石川が決して口には出さないつらさや、苦しさが、大親友にはよく分かっているようだ。

試合後、ヒーローインタビューに向かう石川を出迎えたのも、つば九郎だった。ヒーローインタビュー後には、2人で外野スタンドのヤクルトファンの元へ向かう。今まで、何度もこうしてきた。そのすべてが思い出だ。つば九郎の表情は変わらないけど、なんだか笑顔に見えてくる。

石川は、02年にヤクルト加入。01年のヤクルト日本一の翌年だ。まだ知らない日本一の喜びを、一緒に味わってほしい。【保坂恭子】