まだ神宮球場の左翼席でお祭り騒ぎが続いていた夜の話だ。チームバスが待つ駐車場ですれ違った際、阪神の片山大樹ブルペン捕手が“悲鳴”を上げた。

「あ~あ。今日は1回も仕事してないわ…。こんなこと珍しいよ」

ニッコリ緩んだ目尻のシワを確認しながら、そういえばそうか、と懸命に記憶を巻き戻した。

今更説明する必要もないかもしれないが、神宮はブルペンが一、三塁のファウルゾーンに設置されている。つまり、バックネット裏の記者席から目視できる。高卒3年目の西純矢がプロ初アーチ&初完投を達成した18日。よくよく考えれば、ブルペン陣は誰1人として1度も準備することはなかった。

「1点差、2点差だったら絶対に誰かが肩を作る。大差でもそう。でも今日は誰も1回も作らなかったでしょ?」

ブルペン捕手歴20年を超えるベテランをも驚かせた「臨時完全休業」。3回までに6得点の猛攻を決めた打線、そして20歳右腕の隠れた功績に焦点を当てたくなった。

今季、タイガースでは計4度の完投が記録されている。西勇輝が完封を1度、青柳晃洋が1完封2完投を決めている。ただ、この4試合のうち2試合は1点差。どの試合も念のため、誰かの肩を1度は作らせていたのかもしれない。

そもそも、この2人は誰の目にも大黒柱。ハナから長いイニングを計算されている立場でもある。

一方の西純矢は立場が違う。狭い神宮で、強力ヤクルト打線を相手に、まだ20歳の若虎がリリーフ陣の疲労を軽減させた価値はやはり大きいように感じる。

投手陣は18日ヤクルト戦を終えた時点で、20試合連続で3失点以内と球団最長の更新を続けている。記録的な奮闘で疲れがたまっているであろうブルペン勢にとって、想定外の完全休養日はありがたくて仕方がなかったはずだ。

「商売上がったりや…」

片山ブルペン捕手はそう冗談めかした後、満面の笑みでバスに乗り込んだ。開幕直後から歴史的な絶不調に苦しんだ阪神。ようやく投打ともに歯車がかみ合い始めている。【遊軍=佐井陽介】