オーバーアクションが思いの強さを物語っていた。阪神近本光司外野手(27)が5回、天敵DeNA今永から先制打を決めた。

直後、一塁ベース付近で大きく手をたたく。誰の目にも、いつもより激しい感情表現だった。「CS仕様です」とニヤリ。短期決戦独特の雰囲気、負けられない戦いで湧き出るアドレナリンがそうさせた。

1死満塁の第3打席だった。150キロを完璧に捉え、中前2点打で両軍無得点の均衡を破った。「非常にでかいですね。もう勝つだけ。勝てたらいい。そのことだけっすね」。これが決勝点となり先勝。何度も繰り返した「勝つ」の言葉が、思いの強さの証拠だ。

今永にはレギュラーシーズンで12打数1安打と抑え込まれていた。相性の悪さがうそのような3安打だ。「どう転ぶかは分からないし、それが野球だと思うので、面白いなと思いますね」。面白く変えられるのも打ってこそ。前日の会見で「下克上」と宣言した選手会長がチャレンジャー精神を体現した。「僕らよりも向こうの方が多分、嫌だと思っている」。ファイナルステージ進出の可能性もグッと高まった。

矢野監督就任直後の18年ドラフト1位。グラウンドで2人で話し出せばラリーは止まらない。2月の春季キャンプではTシャツに「矢野さん 監督やめるってよ」と書き込む禁断の大イジりをしたこともある。厚い信頼関係がある指揮官は「チカがかえすっていうすごくいい形。いい攻撃をしてくれた」とうなずいた。

背番号5は「僕らの野球、矢野野球をしっかりできたら勝てると思う。もっと積極的にもっと楽しくやっていけたら」ときっぱり。「矢野野球」の申し子が生んだ勢いは、簡単に止まりそうにはない。【中野椋】

▼近本と中野がそろって複数安打。レギュラーシーズン中に2人がともに2安打以上打った試合は通算で18勝7敗1分け。勝率は7割2分と好成績だ。今季は7月2日中日戦から4連勝(1分けはさむ)でリーグ戦を終えており、CSでも連勝を継続させた。

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