2022年新人選手選択会議「プロ野球ドラフト会議 supported byリポビタンD」が20日、都内で開催される。

今年はどんなドラマがあるのか。4年前、18年10月25日のドラフト会議は、会場でのあるかけ声がネット上などで話題になった。

「残ってるから!!」

大阪桐蔭・藤原恭大外野手(当時3年)とロッテの縁をつないだかもしれない(?)声の主が、当時のエピソードを明かした。

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応募4度目にして初めて高倍率の観覧抽選に当たった鈴木康広さん(46)は、ロッテのユニホームをまとい、一瞬を狙っていた。

「あそこしかないタイミングを狙っていたのは正直あって。誰もしゃべらない時に言おうと。声が埋もれちゃうと全然届かないので。埋もれる前に」

スター候補の藤原をめぐり楽天石井GM(当時)、阪神矢野監督(当時)がそれぞれのファンの歓声が飛ぶ中でクジを引いた。最後に残った1枚のクジが、ロッテ井口監督(当時)のもの。井口監督が抽選箱に向けて、静かに左足を踏み出す。ほんの1、2秒だけ静寂が訪れるその時。

「井口さん、残ってるから!!」

鈴木さんが声を張ると、井口監督がニヤリ。会場が笑いに包まれる中で、残りクジを引いた。もう1度、念押しする。

「井口さん、残ってるから。大丈夫だよ」

井口監督がまた笑い、鈴木さんがいる観覧席の方へ会釈。そこから10秒少々、クジに「交渉権確定」の文字を確認すると、井口監督は「よーし!」と右腕を突き上げた。藤原自身は4年たった今でも、その光景を忘れない。「素直に、うれしかったですね」。

熱気さめやらぬ中、会場でインタビューが始まる。「熱心なファンからは『絶対残ってる』という声が飛んでましたが、いかがでした?」と問われると、井口監督は鈴木さんの方を見ながら即答した。

「いやぁ、もう、あのひと言だと思います。ありがとうございます!」

拍手が響きわたった。

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井口監督が地元田無神社を参拝し、大阪桐蔭をイメージしたネクタイを着用したのと同じように、千葉市に住む鈴木さんも朝4時には起きていた。

「25日は(埼玉県)川越市の氷川神社でまもり結びを頒布してまして。それをいただいて、お祈りもして、千葉に戻って。ロッテファンの友人の理髪店で髪を切って、午後1時半には会場に着きました。ドラフトは夕方なのに」

有給休暇を取り、万全の備えで藤原獲得を願った。プロレス好き。青春時代は後楽園ホールに通った。ヤジを飛ばし、アジャコングから「うるせぇ、黙って聞け!!」と怒鳴られた経験もある。東京ドームでコーラ売りをしたことも。「男は大きい声出さないと売れないので」。声で目立つ行動には慣れていた。

「残ってるから!!」

声を張り、適切なタイミングで簡潔に。それが想像以上に響いた。井口監督もダイレクトに反応し、御礼を言われるシーンがテレビでも放送された。

「いやぁ、言って良かったなと。うれしかったですね。俺、けっこう大変なことやったのかなと。それと、あれを言ってロッテの役に立って良かったなって思いました。応援してて、これってチームの役に立つことあるのか? と思いながら見ることもあるので」

やじを発することには慣れていたが「残ってるから!!」を機に、考え方が変わっていったという。

「やじを言うにも、前向きなことしか言わなくなりました。SNSの投稿でも、批判を言えば批判が返ってくるなと思って。それなら、いいこと言っていいことが返ってきた方が気持ちいいなと、すごく思うきっかけになりました」

4年が過ぎた。あの一件で身近に感じている藤原は、まだ大活躍には至っていない。「打てない時もあると思いますけど、そういう時こそファンが支えていかなきゃなと。いつか頑張りが報われる日が来てほしいです」と、ZOZOマリンに通いながら願う。今年は33試合、足を運んだ。

ドラフト会議は3年連続で、一般観覧なしでの実施になる。「いつかまた見に行ってみたいですね」と鈴木さんは願う。アクションを起こした自分しか知らない、今もなお鮮烈な思い出があるという。

「残ってるから、って自分が言った時に反応してくれたのは、実は井口さんだけじゃなくて」

そう明かして、笑いながら続ける。

「矢野監督にめちゃくちゃにらまれたんですよ。井口さんの笑顔より、矢野さん怖いなって印象が残ってて。とにかくにらまれたのが怖かったです」

歴戦の勝負師たちが本気の目になる。今年もやって来た。【金子真仁】

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