記者生活30年超の高原寿夫・編集委員が、日本シリーズに鋭く迫ります。

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10月22日はイチローの誕生日だった。73年生まれなので49歳。49歳か。あのイチローが。なんだか不思議な感じもする。そのイチローを擁したオリックス・ブルーウェーブが巨人を倒して日本一に輝いたのが96年。イチローはシリーズ中に23歳になっている。だから同年19日に行われた第1戦の延長10回、決勝弾を放ったときは22歳だった。

それを思えばヤクルト村上宗隆が22歳で3冠王に輝き、24歳のオリックス山本由伸が2年連続で「投手4冠」を獲得し、日本一の投手に成長している現状もあり得るのかな、という気はしてくる。

そんな2人が所属するチーム同士の日本一決定戦。面白くないはずがない。そんな思いで見ていたが、山本にまさかのアクシデントが発生した。今季2本塁打された試合はないという投手が4回までに2被弾。そして降板となった。

「左脇腹がつったような感じ」。広報はそう発表したようだ。山本は昨年の日本シリーズ、同じヤクルトとの決戦で第1戦、6戦と2試合に先発したがいずれも勝ち星がない。今年は敗戦投手になった。

対照的だったのは村上だ。1点差に迫られた8回。逆転を狙うオリックス指揮官・中嶋聡が投入した平野佳寿から放った豪快なシリーズ1号。これはとてつもなく大きかった。

そして26年前、96年のシリーズである。延長10回に巨人の左腕・河野博文から東京ドーム右中間に決勝ソロを放ったイチローが「いいところで打てますね?」と聞かれたとき、こんな話をして笑ったものだ。

「ボクの知らない誰かがそういう才能を与えてくれているんでしょうね。でも、もう、そんなには続きませんよ」

主役になるべき選手、そう期待される選手が本当に主役になる。それにはイチローが言うように実力だけでなく何か見えないものの力が必要なのか。「運」と言ってしまえばそれまでだが、もっと大きな流れというか、そんなものかもしれない。

もちろん若者には未来がある。普通に考えて山本に大きな問題がなく、シリーズが6戦目までいけば、再び2人が脚光を浴びる対戦になるはずだ。

2年連続の顔合わせは期待通りの熱戦。1戦目を落としたオリックスだが、まだこれから。プロ野球で今、唯一の真剣勝負。野球ファンを熱くさせてほしい。(敬称略)