こんなにも変わるのか。台湾プロ野球を見て思わず心がはずんだ。かつて伸び悩んでいた、元阪神の選手の見違える姿があった。台湾シリーズは9日、中信兄弟が楽天を下して2連覇。頂上に立ったとき、マウンドの呂彦青(ル・イェンチン)投手は黄色いテープが飛び交う輪の中心にいた。

「アイツね、緊張している感じがしない。最後は信頼するしかないからね」

元阪神の林威助監督(43)が明かす。呂は18年から3年間、タテジマを着た左腕だ。将来性を買われたが1軍で登板できず。鳴尾浜で投げる姿を何度か見たが、何かを恐れて球を置きにいっているように映った。そんな苦悩の跡が消えた。

台湾一に王手をかけた第4戦。1点リードを守る9回は圧巻だった。外と内の低めスライダーで、2者連続でバットを折って2死。最後は速球で押した。151キロ、147キロ…。最後は空振り三振。思い切り腕を振れるから、打者も球種を見極めにくい。躍動感が際立っていた。

同シリーズ4戦で3セーブ。公式戦も51試合登板で20セーブ、防御率1・98だった。リリーフエースとして活躍した。林監督のマネジメントも成長を後押しした。まだ26歳。適性を見抜いた。開幕時は先発要員だったが、7月から救援に配置転換。用兵がハマった。

指揮官は言う。「球のキレが先発のときより、リリーフの方がよかった。マウンドで堂々としている。ウチのストッパーの調子が悪くて途中から固定した」。能力の高さは、阪神時代の話で知っていた。親交が厚い平田勝男2軍監督(63、現ヘッドコーチ)から「外国人だったから1軍のチャンスはなかったけど、いい球を放れているよ」と伝えられていたという。

林監督は打者目線からもアドバイスした。現役時の07年に15本塁打を放ったスラッガーだ。「2ストライクになると打者は遅い変化球に張る。カーブは危ない。カットボールやスライダー、チェンジアップの方がいい」。追い込まれた打者はあらゆる球種を幅広く待つ。球速が遅いカーブは反応でも打ててしまう。痛打される姿を見て、球速差が少なく、引っ掛けさせる変化球を勧めた。呂は日本で夢破れ、故郷で花開いた。

台湾では野球を「棒球」という。バットが先立つように攻撃に偏りがちな風潮がここにはある。林監督も強打者の印象だ。だが、指導者としては一線を画す。日本仕込みの細かな守備中心の野球が実りつつある。台湾シリーズは就任2年で8勝無敗。それでも「1年間でいいときも悪いときもある。自分の仕事は何か。もっと選手には分かってほしい」と言う。栄光に溺れない。3連覇、そして黄金期へ。呂ら気鋭の若手を導きながら、先を見据えた。