<日本ハム0-1ソフトバンク>◇25日◇札幌ドーム

 涙の王手だ。ソフトバンク杉内俊哉投手(29)が5安打完封の快投でマジック1とした。日本ハムのダルビッシュとのエース対決を制して16勝目。8月21日の楽天戦以来5試合ぶりの白星に、試合後は人目もはばからず号泣した。26日のデーゲームで西武が負けるか、ナイターの楽天戦(Kスタ宮城)に勝てば7年ぶりの優勝が決まる。

 1日早いのは分かっている。震えるまぶたにどれだけ力を入れても、止められなかった。杉内が泣いた。うつむき、ほおを赤く染め、両目から熱い涙をこぼした。試合後のヒーローインタビュー。「ここ4試合が、ホントにふがいない投球だったので…」。あとは言葉にならず、男の嗚咽(おえつ)があるだけ。10秒以上の沈黙の後、ようやく「最高です」と声を振り絞った。

 絶対に負けられない戦いだった。デーゲームで西武が勝ったため、敗れれば首位陥落とマジック消滅の危機を迎えていた。相手は11日に投げ負けたダルビッシュ。「最初から飛ばしていった。5回で(マウンドを)降りてもいいと思った」。2回には背筋が凍りついた。先頭小谷野への2球目。高めの直球をジャストミートされた打球は、左翼ポール上方を通過してスタンド最上段へ。やめてくれ-。必死の思いが通じたのか、ビデオ判定の末にファウルと判定された。

 気合を前面に押し出した。7回に待望の先制点が入ると、両手を広げて喜びを爆発させた。8回を3者凡退に抑えると、体を「く」の字に折り曲げてほえた。1点リードの最終9回には1死一、二塁のピンチを招いたが、最後は糸井を外角のスライダーで併殺に仕留めた。「いや~、しびれたね」。ウイニングボールをつかんだ小久保と抱き合い、歓喜に全身をゆだねた。

 苦しんだ。8月21日の楽天戦を最後に白星から遠ざかった。以後4試合は0勝2敗、防御率9・58。悩んだ。「(原因が)分からない」。寝付けない夜もあった。通常は40~50球のブルペン投球を100球近くに増やすなどもがいたが、トンネルの出口は見えなかった。答えが見え始めたのは20日の西武戦。登板2日後の休日を利用して家族とスタンドから観戦した。先発ホールトンがKOされながら、投手5人の継投で白星をつかんだ試合。“1人の観客”としてグラウンドを見下ろし、考えすぎていた自分に気付いた。「今日は何も考えず、無心で投げた」。

 たゆまぬ努力も実を結んだ。今季、杉内は投手陣で最も早く球場入りしている。午後6時開始の本拠地ナイターの日なら午前11時すぎには到着済み。「今年から午前中にウエートをやってるんですよ」。汗を流した後は酸素カプセルなどに入り、30分から1時間ほど仮眠。成長ホルモンの分泌を促し、より強固な肉体をつくり上げている。時には家族との時間を犠牲にしてまで、野球に打ち込んできた。

 「最後にこういう投球ができてよかった。マジック1になったので、明日はみんなに託して応援します」。“フライング”で流した涙も杉内だから許される。大団円はもうすぐそこ。今度はうつむかず、声を大にして泣けばいい。

 [2010年9月26日11時45分

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