<日本ハム6-4西武>◇15日◇札幌ドーム

 情はベンチに残したまま、腰を上げた。日本ハム栗山英樹監督(53)はゆっくりと、球審に近づいた。5回無死一、三塁。4点リード。6勝目まであとアウト3つの上沢直之投手(20)を、マウンドから降ろした。「正直かわいそうだったけど、やらなきゃいけないことはやる。今年はチームが勝つためにやるという前提で、前に進めているわけだから」。開幕前から、自分自身と交わしている約束。勝負に、徹した。

 本心は、別のところにある。序盤から、口を真一文字に結んで、マウンドの上沢を見つめていた。「心の中で『頑張れ』って願ってた」。2回に新加入のメヒア、4回に中村に一発を浴びた。登板5イニング中、3度は先頭打者が出塁。「最低限の仕事ができなかった。申し訳ないですし、悔しいです」。指揮官の思いは、上沢だってわかっている。だから応えられない自分に、腹を立てた。

 それでもチームの勝利が、2人の胸にかかる霧を、払ってくれる。2番手・谷元がピンチを封じると、カーター、宮西、クロッタ、増井が、荒れそうな展開を締めた。「ウチが誇れる、すべてのチームに対して、自慢できるもの」。絶大な信頼を寄せる救援陣。心を鬼にした決断が、正しかったことを示してくれた。

 前日14日の休日、栗山監督はひさしぶりに栗山町の自宅「栗の樹ファーム」で静養した。球根から育てたチューリップは花を咲かせていた。木を見上げると、主を失っていた古い鳥の巣箱に、“転居”してきた新しい仲間がいた。「エゾリスがひょこって顔を出してた。パタンパタンって音がするなぁとは思ってたんだけど。かわいいんだ。北海道に帰ると元気が出る」。3連勝で、11日ぶりに勝率5割に復帰した。7年連続で勝ち越している交流戦は目前。一昨年の王者が、“空き家”にしていた上位戦線に顔を出す。【本間翼】