日本で一体何人の格闘家がヴィーガン(完全菜食主義者)なのだろうか。もしかすると1人もいないかも知れない。そう考えると、僕が日本格闘界で唯一のヴィーガン格闘家と言っても過言ではないだろう。もしヴィーガン格闘家がいたら、ぜひ声をあげてもらいたい。きっと仲良くなれると思う。

そんなヴィーガン格闘家の僕が出場するプロデビュー戦が2022年2月16日に行われる「RISE FIGHT CLUB」に決まった。この試合は通常のボクシンググローブとは異なるオープンフィンガーグローブを着用しての試合になる。オープンフィンガーグローブとは通常のグローブよりかなり小さいサイズで、なおかつ指が出ているタイプのものである。RIZINを見たことがある人は想像がつくかも知れない。大会はAbemaTVでも生放送されるので、僕の生き様に興味のある方はぜひ見ていただきたい。

そして気になる対戦相手は、元西武ライオンズの野球選手だった相内誠さん。JリーガーVS野球選手の代理戦争だ。格闘ファンからは「イロモノはいらない」「素人が出る場所じゃない」ともっともなご意見を頂いている。僕がファンでもそう思ったかも知れない。しかし、当の本人は全くそんなことを思っていない。何故なら、本気の本気でど真面目に毎日3時間、24歳のプロ選手と真剣に厳しい練習をしているからだ。

そして、その師匠はミスターストイックの異名で格闘界を盛り上げた小比類巻貴之さんだ。毎日、小比類巻さんの指導の下、RISEのランキング2位まで上り詰めた京介選手と共にゲロを吐くくらいの練習に取り組んでいる。この練習に耐え、毎朝起きるたびに全身に激痛が走るが、それでもその歩みを止めていない。43歳でこの練習量を毎日やり切っているのは自分しかいないと思い込んで日々必死に戦っている。そんな自分がこの試合をイロモノだと思えるはずがない。イロモノならもっと毎日が楽で余裕なはずだ。

43歳のおっさんが必死になっている姿は滑稽だ。京介選手とスパーリングをすればほぼノックアウト。フックで失神させられ、膝でもん絶させられ。こんな苦しいことを続けている意味はどこにあるのか。

あるんです。それは僕ら40代が今こそ立ち上がるべき時代(とき)だからです。コロナで停滞感いっぱいの世の中になり、今まで以上に人の足を引っ張り、何かを頑張ろう、挑戦しようという人には容赦ない誹謗(ひぼう)中傷が飛ぶ。こんな世の中で誰が挑戦をするのか。こんな世の中で誰が一歩前に踏み出せるのか。みんな周りを見ながら、どの道が一番批判されずに安全に進めるかしか考えなくなっている。

このままでは日本の未来に希望はない。その希望のない日本を作って、残してしまうのは我々40代の責任でもある。わが子やその子ども、そのまた子どもたちが今より幸せに暮らせる世の中を残してあげたい。僕がリングに立とうとするのはそんな想いからだ。だからこそ、どれだけ辛くても、厳しくても、僕は毎日戦い続けられる。

僕を支えているのは、こう言った使命ともうひとつある。それは「健康」だ。僕は現在ヴィーガンである。ヴィーガン歴は2年。ヴィーガンというと動物愛護で思想が強くてお肉大反対の方々を思い浮かべるかもしれませんが、僕にはその思想はない。Jリーガーの時もそうだったが、40歳からプロアスリートとして毎日10代、20代と凌ぎを削っていくのは並大抵の努力では無理なのだ。

そんな中、毎日お肉をしっかり取り、白米を食べ、野菜を食べ、栄養学的にバランスの良い食事をしていたが、身体が悲鳴をあげ始めた。そして、けがばかりの41歳となる。

そこでもう1度「けんこう」とは何かを考え始めた。そこで出た答えは、人から聞いたり学んだ知識で「けんこう」を捉えていたが、自分の中での「けんこう」を明確に定義できていなかった。もう1度「健康」という作られた概念から「けんこう」というまっさらな状態にしてみたいと思った。

そして僕が取り組んだのは2週間のファスティング。当時サッカー選手だった僕には地獄のような日々だったが、それをなんとか乗り越えた。そこから動物性タンパク質を一切やめた。お肉、チーズ、乳製品。そしてそこにプラスして小麦もやめ、カフェインもやめた。それからさらに気を使い始め、添加物など、この食材を長く維持するために使われている「何だかわからないもの」をやめた。

その結果、改めて「健康」が何かわかった。それは自分には自分に合ったものがある。それを試さずに言われるがまま口から胃へ腸へと流し込むのは大きな間違いであることに気がついた。何が自分に合っていて、何が自分に合っていないのかを栄養学の観点だけではなく、自らの実体験で感じ取ることが必要である。 僕の体は大きく変わった。Jクラブが使っている体力テストで、走行距離は最初に測った時の倍以上になったのだ。これは食事を変えただけで実現したことである。その結果、トレーニング量が多くてもそれに耐えられる体になっていき、今では毎日3時間の過酷なトレーニングに耐えている。

「使命と健康」。これが今の僕を支えている。僕はヴィーガンを勧めているわけではない。ただ、その口に入れているものが本当に自分に合っていますか?と問いたい。リングに立つためには、目に見えない臓器にまで気を配り、自分の限界点のギリギリまで追い込むことが必要である。そんな僕が2月16日のリングを「イロモノ」だと思うはずがないし、リングの上で戦う僕の生き様を見ていただければ2度と口にできないことだと思う。

さあ、僕ら40代が立ち上がる時代だ。人に言う前にまずは自分がやる。これが僕のモットーなので、率先して矢面に立ち、どんな誹謗(ひぼう)中傷もエネルギーに変えていきます!皆さん、ぜひ2月16日の試合を見に来てください!!

◆安彦考真(あびこ・たかまさ)1978年(昭53)2月1日、神奈川県生まれ。高校3年時に単身ブラジルへ渡り、19歳で地元クラブとプロ契約を結んだが開幕直前のけがもあり、帰国。03年に引退するも17年夏に39歳で再びプロ入りを志し、18年3月に練習生を経てJ2水戸と40歳でプロ契約。出場機会を得られず19年にJ3YS横浜に移籍。同年開幕戦の鳥取戦に41歳1カ月9日で途中出場し、ジーコの持つJリーグ最年長初出場記録(40歳2カ月13日)を更新。20年限りで現役を引退し、格闘家転向を表明。同年12月には初の著書「おっさんJリーガーが年俸120円でも最高に幸福なわけ」(小学館)を出版。オンラインサロン「Team ABIKO」も開設。21年4月に格闘技イベント「EXECUTIVE FIGHT 武士道」で格闘家デビュー。初戦、8月27日の第2回大会と2戦連続でKO勝利し、12月10日の第3回大会も判定勝ちで3連勝中。175センチ、74キロ。

(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「元年俸120円Jリーガー安彦考真のリアルアンサー」)