FIFAワールドカップ(W杯)カタール大会で日本が決勝トーナメント進出を果たした。1次リーグ最終戦ではスペインを相手にドイツ戦に続く逆転勝利をおさめた。

日本は間違いなく世界の中で言えば挑戦者の立ち位置。その立ち位置を理解した上ですべきことはリスクを冒すこと。全てにおいてリアクションにならずアクションすることで活路を見いだすことに全てをかけなければいけない。

勝つために必要なことと日本サッカーが目指すべきこと。そこがどれだけ明確かでやるべきことが変わってくる。目先の勝利を追うことは大事ではあるが、それが日本サッカーや日本の子どもたちの育成にもつながる。

そういう意味では見えてきたことがふたつある。ひとつ目は、縦へ縦へのサッカーが日本の武器になるということ。ポゼッションという言葉にとらわれず、ポゼッションそのものが意味する概念をちゃんと理解するべきだ。ゴールキーパーからつなぐことがポゼッション率を上げるのかもしれないが、その率を上げるためにポゼッションがあるわけではない。

サッカーというスポーツは相手より1点多く取ればいいスポーツである。いかにゴールを目指せるかが何よりも重要になる。バルセロナなどが行っているポゼッションサッカーをどうしてもまねるところから入ってしまうが、今こそ日本はまねるから生み出すに変えなければいけない。

海外は常に本気でナンバーワンを目指している。まねるのではなく、壊すをテーマに革新的なサッカーを生み出し続けている。オランダのアヤックスはオランダサッカー協会がサッカーは11対11のスポーツであることから、そこからの逆算でメソッドを作っている。彼らは1対1が発展したものがサッカーだと考え、真っ向から違う理論をぶつけている。これがものすごく大事なものになる。

どうすればより面白く、より革新的なものを生み出せるか。今こそ日本がやるべきことだ。強豪国相手にはポゼッションすることができない。であればそもそもポゼッションという概念を変えて、日本独自の仕組みを生み出すチャンスになる。

Jリーグでも同様に、サッカーの原理原則をもう一度思い出し、ゴールに直結するプレーを増やしていくべきだと思う。それがエキサイティングで面白いと思われる試合に変わっていくはずだ。

見えてきたものの2つ目はリスクを負った前からのハイプレス。これは間違いなく今大会で日本代表が見せた重要な戦術だ。特に相手が自分たちより上回っている場合はこの戦い方が非常に有効だ。プレスをかける時はボールの移動時、これを鉄則として、チームが連動すればジャイアントキリングが起こせる。そのためには間違いなく圧倒的なフィジカルが必要になる。

ここでいうフィジカルとは「スタミナ×◯◯」。例えば、どれだけ足が早くてもすぐにスタミナが切れては使い物にならない。また、どれだけパスが上手でもスタミナがなければ90分戦うことができない。そして闘争心があってもスタミナがなければその闘争心も途中で消えてしまう。

とはいえ、スタミナだけがあっても全く意味がない。重要なのはスタミナ×◯◯がしっかりと備わっていること。これを大前提に、育成年代からしっかりとベースを作ることが大事だ。昨今は戦術を教え込む指導者が増えていると思うが、それ以上に育成年代でやるべきことがある。

今回のW杯での1次リーグ突破はまさにジャイアントキリング。挑戦者である日本はもっともっとしたたかにリアリストでいい。弱さを受け入れ、その上で強いものを食う。ジャイアントキリングの精神が日本人の魂と一致している。

僕も挑戦者として引き続き自分の人生のジャイアントキリングを起こし続けていく。そこにはリスクと革新性が絶対条件だ。自分を理解して、自分の肉体と向き合い、精神と向き合う。その上で今できることと、未来に必要なことをちゃんと考える思考を手に入れる。

今と未来を行き来しながら自分を形成していけば、ジャイアントキリングは誰にでも起こせる。日本代表がそれを教えてくれた。この結果は、日本人誰もが持っている可能性を教えてくれたんだ。一喜一憂せず、自分の人生と向き合い、起こせ、自分の人生のジャイアントキリング!

◆安彦考真(あびこ・たかまさ)1978年(昭53)2月1日、神奈川県生まれ。高校3年時に単身ブラジルへ渡り、19歳で地元クラブとプロ契約を結んだが開幕直前のけがもあり、帰国。03年に引退するも17年夏に39歳で再びプロ入りを志し、18年3月に練習生を経てJ2水戸と40歳でプロ契約。出場機会を得られず19年にJ3YS横浜に移籍。同年開幕戦の鳥取戦に41歳1カ月9日で途中出場し、ジーコの持つJリーグ最年長初出場記録(40歳2カ月13日)を更新。20年限りで現役を引退し、格闘家転向を表明。同年12月には初の著書「おっさんJリーガーが年俸120円でも最高に幸福なわけ」(小学館)を出版。オンラインサロン「Team ABIKO」も開設。21年4月にアマチュア格闘技イベント「EXECUTIVE FIGHT 武士道」で格闘家デビュー。22年8月に同大会75キロ以下級の王者に輝いた。プロとしては22年2月16日にRISEでデビュー。同6月24日のRISE159にも出場し、2連勝。同10月23日にはスイス・チューリヒで開催された大会「ノックアウト・ファイトナイト8」に参戦し、スイスのパトリック・カバシ(25)と引き分けた。175センチ、74キロ。

(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「元年俸120円Jリーガー安彦考真のリアルアンサー」)

スイス・チューリヒで開催された格闘技大会「ノックアウト・ファイトナイト8」で対戦したパトリック・カバシ(左)と記念撮影する安彦考真
スイス・チューリヒで開催された格闘技大会「ノックアウト・ファイトナイト8」で対戦したパトリック・カバシ(左)と記念撮影する安彦考真
日本対スペイン 試合後、円陣で勝利を喜ぶ三笘(中央)ら日本代表の選手たち(撮影・江口和貴)
日本対スペイン 試合後、円陣で勝利を喜ぶ三笘(中央)ら日本代表の選手たち(撮影・江口和貴)