日本のプロレス人気をけん引する業界最大手の新日本プロレスで、今年上半期にリング上での大きな事故が2件あった。3月3日、沖縄大会で「こけし」で大人気の本間朋晃(40)が中心性頸髄(けいずい)損傷。4月9日の両国大会では、柴田勝頼(37)が硬膜下血腫で緊急手術を受けた。

 本間は、試合中に邪道のハングマンDDTというワザをかけられ、首をきめられたまま頭部をマットに打ち付けられた後、リング上で動けなくなった。そのまま、沖縄市内の病院へ救急搬送。柴田は、IWGPヘビー級王者オカダ・カズチカとの壮絶な死闘の試合後、体調不良を訴えこちらも都内の病院へ救急搬送された。

 本間は、沖縄から大阪の病院へ転院。外出許可も出て、府内のゴールドジムで復帰に向けリハビリを行っているという。一方、柴田は、当初は命に関わる状況で経過報告も控えられていたが、再手術も終え一般病棟に移ったという。歩行や会話はできるが、今後についてはまだ何とも言えない状態ながら、退院へのめどもついてきているという。

 5月16日、今後の経営戦略発表会見の前に、三沢威メディカルトレーナーが、2人の病状報告を行った。その中で、三沢トレーナーは、選手の健康管理に対する社内の取り組みを発表した。それによると、新日本には選手の健康管理を行う医事委員会があり、脳神経外科医、脊髄専門医、整形外科医、団体のトレーナーで構成されている。選手の試合や練習で負った偶発的なケガについて対応し、緊急な手術が必要な場合も迅速な対応ができるような態勢を整えているという。

 所属選手に関しては、6年前からMRIやCTを含めた健康診断を国際医療福祉大、三田病院などで年に1回実施し、そのデータを蓄積しているという。

 試合会場では、選手たちが試合前に、トレーナーにマッサージを受けたり、テーピングしたりと入念な準備をしている。三沢トレーナーは、会見で医事委員会では選手の体調面を考えて、試合数を限定してシリーズ参戦を考える意向も表明した。会見に出席した木谷高明オーナーも「選手の健康管理をすべて見直していきたい」と明言した。

 新日本の選手たちがリング上で繰り広げる戦いは、今や世界一の規模を誇るWWEにひけをとらないどころか、それ以上と評価されている。年間約120試合をこなし、年々高度化する技術にともない、ケガの危険性も高まる。選手たちは、肉体を鍛え上げ、受け身の技術を高めることで、会場に詰めかけるファンに最高のパフォーマンスを見せられるように努力している。しかし、選手のケガは選手の努力だけでは防ぐことができない段階にきている。三沢トレーナーや、木谷オーナーが会見で話した企業努力と相まってこそ、致命的なケガの可能性が減っていくことになる。新日本の取り組みを見守りたい。【プロレス担当=桝田朗】