大相撲では、現役時代に取り組み後のインタビューでひと言もしゃべらず記者泣かせの横綱、大関がいた。

 しかし、引退すると、急に笑顔で話し掛けられ驚いたことがあった。そんな話を思い出したのは、川田利明(54)のトークショーを見たからだ。

 全日本プロレス時代は、四天王と呼ばれ、故三沢光晴さん、小橋建太氏、田上明氏とともに黄金時代を築いた伝説のレスラーだ。まだ、引退はしていないが、10年を最後にプロレスはしていない。そんな川田が、再びプロレス界に戻ってきた。自身がプロデュースする大会を4月26日に、新木場1st Ringで開催したのだ。

 もちろん、プロレスはやらなかった。その代わりに、全日本の後輩、丸藤正道(38=ノア)とリングでトークショーを行った。現役時代は常に何かに怒っているような表情で、近づきがたかった。コメントもぶっきらぼうだった。しかし、三沢さんとの激闘は、プロレス史に残る名勝負だった。リング上に登場した川田は、プロレスをやる前のように屈伸運動をした。そして「控室で30分1本勝負でしゃべるなら、試合やった方が、楽じゃない? って言われたけど、オレがイヤだと断った」と笑いを誘った。

 トークショーで川田が話したのは、しゃべらないキャラクターづくりによって、川田自身がプロレスラーとして確立されたということだった。タイガーマスク(三沢)が登場して人気を博していた時代、川田は師匠の故ジャイアント馬場さんから「タイガーマスクよりすごい技をやるな」と言われたという。「何もやらなくなったときに、自分がプロレスラーとして確立できた」と話す。しゃべらないことも、その一環だった。

 「マスコミに対して話さないのは、マスコミが川田がどう(考え、行動する)だろうと考えてくれるから」と当時のダンマリを解説した。それにしても、試合後の川田は怖かった。「近づくな」オーラを出して、記者もびびっていた。そんな川田の考えが、30分1本勝負のトークショーから伝わってきた。

 全日本時代、三沢さんの付け人だった丸藤も、川田から口を聞いてもらえない1人だった。その丸藤が、川田の得意技、ステップキックの伝承を川田にお願いした。「最近、丸藤が気を使ってオレに似たようなことやってくれるんだけど、もうちょっと勉強してからにして」。川田の顔は本当にうれしそうだった。【プロレス担当 桝田朗】