マスクをしてランニングなどの練習を採用しているチームや選手がいる。心肺機能を高めるためという。世界中でマスク不足の事態。これからは「そんな無駄なことに使うな」と言われそうだ。

ボクシングでも今やマスク必須のジムもある。ミット打ちを受けるトレーナー。元々は選手も引退した身で、息が上がって3分持たないこともあるそうだ。会員の練習はシャドーやサンドバッグ打ちが中心だが、ミット打ちを一番やりたがるという。中には信頼しているからとマスクを外してという会員もいるそうだ。

ウイルスの感染拡大後、ジムではさまざまな対策をしてきた。検温して入室、手だけでなく、グローブやミットなども小まめに消毒。換気で窓を開放し、寒い日は厚着を勧めるジムもあった。営業時間は短縮し、キッズ指導は自粛している。スパーリングは試合が決まっている選手限定が大半。マスボクシングやミット打ちも含めて禁止のジムもある。

興行は6日に5月30日まで中止、延期となった。最初は3月31日までとしたが、今回は3度目の期間延長。さらに緊急事態宣言で、7都府県のジムは1カ月の営業自粛を余儀なくされる。すでに完全休館のジムもあったが、首都圏では3月下旬から週末は閉館など、苦労しながらの営業だった。

2月頃から感染拡大が始まると、会員にも変化があった。テレワークや休校対策で、都心にあるジムは会社員や学生の会員が減りだした。郊外では逆にテレワークの会員などが、日中から練習する姿が増えた時期もあったという。それも週末休館で激減した。

なんとかしのいできたが、この1カ月の休館は死活問題になる。大半のジムは会員の会費で成り立つ。例年なら年度替わりで進学、進級、異動などを機に入会者が増える時期。一転して、休会や退会者が日増しだ。

ジムには後援者、スポンサー企業などもある。近隣の商店がジムや選手を応援する。休業や倒産も増加する状況で、今後も続けてもらえるかという不安も出てくる。

プロボクサーは試合がなければ収入が断たれる。多くは仕事しながらの選手生活だが、飲食店などのバイトも多い。そのバイトも減ってきた。仕方なく地方の実家に帰ろうとしたら「東京もんは帰ってくるな」と言われた選手もいたそうだ。

世界中が止まっている状況にある。国内で活動が再開したとしても、日本と海外では時差が出てくる。大会ではなく個々のマッチメークという特異の競技。世界を目指すボクサーには厳しい状況が予想される。

今年国内で開催された世界戦は日本人同士の女子1試合しかない。男子は中谷のWBOフライ級王座決定戦が4月から延期されて未定。一番期待のホープが先陣を切るはずが…。今や世界のスターとなった井上を筆頭に、ボクシング王国の一つと言える日本。再びゴングが鳴る日はいつになるのだろう。【河合香】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)