何事にもタフでなければいけない。新型コロナウイルスの影響でスポーツ界全体がもがき苦しむ中で、あらためてそう感じた。

5月30日、神戸市内でボクシングの興行が行われた。当初は千里馬神戸ジム主催だったが、直前にミツキジムに変更となった。千里馬神戸ジム会長の逮捕という不祥事のためだった。

雰囲気を確認する狙いもあり、会場へ取材に行った。かすかに描いていた「マイナスイメージ」は、かけらもなかった。緊急事態宣言下で人数制限はありながら、会場には熱気があり、選手はリングの上で練習してきた成果を必死に披露していた。直前に起きた“事件”など、まるで関係ないように感じた。

興行を請け負ったミツキジムの春木博志会長代行は「突然でびっくりしました」と話しつつ、「選手は何も関係ないですから。試合をするために大変な苦労をしてきている。それを無で終わらせるわけにはいかない。その一心です。大変でしたけど、何とか興行をやろうと。みなさんが協力してくれたおかげです」。

ボクシングはリングに上がるまでの戦いの方が過酷とも言われる。減量は平均で10キロ前後落とす。食べ物を入れないだけでなく、究極は水を抜く。極限まで仕上げて試合前日、計量のはかりに乗る。そんな苦しみを分かっているからこそ、簡単に興行をやめるわけにはいかない。

3150ファイトクラブの元世界3階級制覇王者の亀田興毅会長も、コロナで1度は延期になった初興行を無観客で実施した。「調整が大変な中でも必死に練習に取り組んできた選手たちの成果を披露させてあげたい」と赤字覚悟で臨み、現実に大きな赤字を抱えた。「はげができましたよ」というほどの心労がありながら、会長としての覚悟を持って立ち向かった。

記述した2つの興行。背景こそ違うが、「選手の努力をむだにできない」思いは一致している。まだまだコロナの収束は見えず、ボクシングの興行は最も影響を食らうだろう。その中で選手だけでなく、関係者も必死に闘っている。【実藤健一】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)