短い言葉に無念の思いが染みた。

ボクシングの元WBC世界ライトフライ級王者矢吹正道(30=緑)が、左アキレス腱(けん)断裂の重傷を負った。5月18日のスパーリング中に負傷し、翌19日に所属ジムが発表した。

「大丈夫なのか!? とにかくゆっくりけがを治してください」と送ったメールの返信が、「手術です、、、ありがとうございます」。いつもは雄弁に語ってくるメールの文面から、失意の感情がにじんでいた。

矢吹は1月にIBF世界ライトフライ級次期挑戦者決定戦に勝利し、同団体の2位までランキングを上げた。次戦は8月に同級の元WBAスーパー王者・京口紘人とも対戦した世界ランカーのエステバン・ベルムデス(メキシコ)戦が決まっていた。この試合をへて、一気に世界再挑戦への展望が開ける、はずだった。

23日に試合の発表会見を行う予定だった。その矢先の不運。25日に手術を行う予定で、試合を行うまでの回復には4~5カ月を要する見込みという。7月9日に31歳の誕生日を迎える。ボクサーとして、限られた時間を知るからこそ、けがのダメージは大きい。

今の心境は推し量るべくもない。ただ、気持ちは折れてほしくない。元WBC世界スーパーバンタム級王者の西岡利晃氏は、キャリアの絶頂期に左アキレス腱を断裂。その後、7年をかけて世界王座を獲得した。

ボクサーにとって、拳とともに足は命。同時に長期休養によって、コツコツと上げてきた世界ランクも失う。体だけでなく、精神的ダメージも大きい。

これまでも逆境に立ち向かってきた人生だ。昨年3月に寺地拳四朗とのダイレクトリマッチに敗れ、ベルトを失った時も「もう辞めようと思った」。しかし、家族の支えもあり、闘うことをやめなかった。

反骨心。やんちゃを極めた少年時代から、矢吹の人生を象徴する。「立て、立つんだジョー!」。主人公からリングネームをもらった不滅のボクシングマンガ「あしたのジョー」の名セリフがふさわしい。【実藤健一】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)