横綱白鵬の記録ずくめで終えた名古屋場所。ただ、2横綱1大関が途中休場した中で、場所を盛り上げたのは間違いなく若手力士の奮闘だった。自分が聞いた中で、印象に残った若手3力士の言葉を列挙したい。

 ◆場所直前に21歳の誕生日を迎えた阿武咲(阿武松)は10勝した。新入幕から2場所連続で2桁勝利を挙げたのは、1場所15日制が定着した49年夏場所以降、初代若乃花や白鵬らと並び、04年九州の露鵬以来13年ぶり7人目の快挙だった。

 「(2桁は)別に意識もしなかった。一日一番取ろうと思っていた。それよりも楽しいっすね、テレビで見ている人とやれて。(雰囲気に)のまれることはないです。食ってやろうと思っている。先場所よりも明らかに強い人たちだから、めちゃくちゃ楽しいです。(まだ上に強い力士がいると思うと)ワクワクします」(10勝目を挙げた14日目の取組後)

 ◆自己最高位の西前頭2枚目で勝ち越した北勝富士(25=八角)は、横綱鶴竜から初土俵からわずか15場所目で初金星を挙げるなど、1横綱2大関を撃破した。

 「ようやったなという感じです。本当に今場所はきつかった。自分の相撲がどれくらい通用するか、取り切れるかを課題としてやってきた。自分の相撲が取れずに悔しい思いもしたし、拾った星もあったけど、後半からは自分の思う相撲が取れるようになりました。一皮むけて成長できたのかな。自分の相撲を取りきれば通用する、頑張れるなと確認できました。まだ弱いところがいっぱいある。もっと自分の相撲に磨きをかけたい。楽しみがいっぱいありますね」(14日目で勝ち越しを決めて)

 ◆自己最高位の西前頭筆頭で初日に大関照ノ富士を倒した20歳の貴景勝(20=貴乃花)。しかし、2日目から6連敗を喫するなど5勝10敗に終わった。

 「一番印象に残ったのは日馬富士関。本当に強いと思いました。今までの人生で(立ち合いで自分より低く)相手の軌道が見えたのは初めて。速すぎた。あまりにも鋭かった」「正直、場所前は不安で1勝もできないんじゃないかと思っていた。でも、やってみて、やれるんじゃないかとも思った。でも、この成績では口だけで言っても戯れ言。もう1度、挑戦したい。宇良や北勝富士は苦しくても、取るところで取って挽回する。自分はまだまだ精神が甘い」「世代交代という言葉は自分がどうこう言えない。人が判断すること。自分が言うのはおかしい。ほかの人に言ってもらえるように頑張るだけです」(千秋楽を取り終えて)

 若手の台頭が目立ったとはいえ、壁をはね返した者がいれば、壁にはね返された者もいた。どちらにしても、彼らは歩みを止めることなく、前を向いていた。貴景勝が言うように「世代交代」という言葉は周囲が口にすることなのかもしれない。だが、引き出すのは間違いなく彼ら自身。この“文句”が自然と収まるような場所は、すぐそこまで来ている。【今村健人】