酷暑の中、大相撲の夏巡業が行われている。相撲人気復活を示すように、今巡業は7月29日の岐阜・大垣市を皮切りに、8月26日の東京・KITTE場所まで29日間で26カ所を巡行するハードスケジュールだ。

 中部、近畿から北信越、関東をへて東北、北海道、再び関東に戻り秋場所番付発表(8月27日)まで続く全国行脚。力士も大変だが、30年近く前に担当だったころも、空前の相撲ブームに沸き、今以上の過密日程だった。当時、現役だった親方衆に聞いても「我々の頃の方が、きつかったよ」と振り返る。

 その巡業は、若い衆にとっても絶好の修行の場となる。関取衆の付け人であるのは、通常の部屋にいる時と同じ。だが、巡業となると負荷のかかり具合が違ってくる。日々、巡業地を転々とするため、あの数十キロはある関取衆の明け荷を担ぎ運ばねばならない。今はまだ、大型トラックに運び込むだけでいいが、昔は鈍行列車での移動はざら。腰を折り曲げながら、延々と歩きながら担ぐ姿は痛々しいほどだった。

 また、巡業に出なければ、わずかでも持てる自分の時間なども、移動や関取衆が就寝するまでの雑用で一切ない。若い衆の仕事、といってしまえばそれまでだが、見ている側からすると、気の毒にさえ思える。

 ただ一方で、あれこそが約700人いる力士の中から選ばれし70人の関取になるための、これ以上ない発奮材料になるとも思う。「早く、こんな苦しい生活から抜け出したいと、何度思ったことか。巡業から帰るたびに、何とか脱出したい、苦しい思いをするのは稽古だけでいいとね」。以前に担当していた時、晴れて関取になった、ある親方の回想だ。時代遅れの言葉かもしれないが、若い衆にとって巡業は、ハングリー精神を養う場でもあった。

 今、行われている夏巡業から、力士や裏方ら未成年の協会員の同行が見送られることになった。ある関係者はその理由を「未成年者は未熟で飲酒や喫煙に手を出しかねない。でも巡業では親方衆の目が行き届かないことも多いので、部屋で責任を持って指導するのが好ましいということ」と説明している。昨冬の九州巡業では力士の夜の動向を、相撲取材以外の媒体が宿舎で“潜入チェック”するなど、格好のえじきになりかねない。リスク管理という側面から今回の決定に至ったのだろう。

 だがそれは、本来の巡業の意義を否定するものだ。繰り返すが、若い衆には修行の格好の場でもある。少子化の時代に、力士数の減少は致し方なく、物理的に付け人不足にもなる。また近い将来的にも、10代の関取が誕生することもある。角界にとっては喜ばしいことだが、それでも「10代不参加」となるのだろうか。今回の決定が、暫定的なものであってほしいと願う。常識的な行動をとっていさえすれば、年齢制限など不要なのだから。【渡辺佳彦】