プロ12戦目を迎えたロンドン五輪金メダリスト村田諒太(30=帝拳)が、圧巻のKO劇で世界前哨戦を制した。元WBC米国ミドル級王者ブルーノ・サンドバル(25=メキシコ)を3回2分53秒KOで一蹴。練習方法を見直した“地味トレ”の成果も発揮し、16年は全4戦4勝4KO。自信を深め、来年に見込む世界初挑戦へ向かう。

 右2発で仕留めた。初回から重圧をかけて前進し続けた3回。強烈な右ストレートを相手の左こめかみにぶち込むと「拳の感触があった」。ぐらついて前のめりにバランスを崩したところに、右を打ち下ろして、キャンバスにはわせた。1度はスリップが宣告されたが、「あのリアクションは危険」と足がもつれるサンドバルを心配するほど。結局10カウントを呼び、勝利後のリング上では「あらためて子どもにさせたくないスポーツだと思いました」と会場を笑わせた。

 10月、1つの転機を迎えた。「ピラミッドなんですよ」と見せたイラストには、「機能的動作」「機能的パフォーマンス」「機能的スキル」と書かれた四角い図形が積み重なっていた。「上は専門スキル、真ん中はパワー、スタミナ、下が機能的動作です。1つ1つの動作を正しく行えるか。手が上がる、足が上がるなど。それが下にないと、上に積み上がらない」。そう説明した。

 2カ月前、教えてくれたのは、陸上女子の円盤投げとハンマー投げで日本記録を持つ室伏由佳さん。「ピラミッド形でないと、体に負担がかかり、ケガにつながる。僕はそうだった」。それからストレッチなどの「地味トレ」にかける時間を3倍に。足を振り上げる動きなどを繰り返した。「当たり前と言われているかもですけど、なかなかみんなやらないんです」。常態化していたアキレスけんの痛みが消え、「パンチに体重も乗るようになった」と実感していた。

 「30歳の節目で気付けたのは大きい。もっと強くなる要素はいっぱいある」。WBO世界ミドル級王者サンダースとの世界戦が決定的になりながら、突如流れる不運もあったが、「むしろ体を作り直せる期間がほしかったので」。前向きに、年末を迎えていた。

 現状を「あの時のよう」と称する。アマ時代に世界選手権銀と飛躍した11年、そして五輪金メダルを獲得した12年。その時のパンチの感触に重なるという。この日もそれを証明するKOに、「次、やりたいです!」と世界戦を望んだ。

 有明コロシアムは3年前、デビュー戦を戦った舞台。「あの時は(世界王者は)砂漠に浮かぶ幻みたいだった。やっとここまできたんですね」。はっきりと、プロの頂は見えている。【阿部健吾】