前人未到の防衛を飾った。王者村田諒太(32=帝拳)が6位エマヌエーレ・ブランダムラ(イタリア)から8回にダウンを奪い、2分56秒TKO勝ちした。ミドル級では日本勢で初、最も重い階級での防衛に成功した。世界王者となっても己を冷静に見つめ、また経歴に偉業を加えた。標的に3団体統一王者ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)を掲げ、さらなる頂に挑む。

 自分でも驚く一撃だった。「こんなパンチを打てるのか」。8回、残り15秒、村田はまた進化を証明した。ブランダムラを捉えた右ストレートは、直線ではなく鋭角にガードを抜けて右から顔面を捉え、ひざまずかせた。レフェリーが手を交差する。ミドル級、日本人初の防衛成す。瞬間、右拳を掲げた。「ホッとしました。KOという形で期待に応えられた」「初防衛戦なので及第点」。自然に白い歯がこぼれた。

 初回から重圧をかけ、ロープを背負わせた。相手の背中はこすれてすぐに赤くなった。フットワーク自慢を、滑らかな足取りで追い込み続けた。「体が開いていた右ストレートのズレを5回から修正できた」。倒したい欲を抑え、焦らず、「違った右」で仕留めた。

 2日前、調印式にベルトを忘れてきた。自宅に置いたままだった。うっかり、というより、防衛戦に臨む心持ちがそうさせた。「王者なんてとんでもない。圧倒する才能はない」。客観的に実力を見つめ、挑戦者の気概で成長を目指した。

 「ピョン吉の扱い方がうまくなった。2匹目の」。漫画「ど根性ガエル」の主人公のTシャツの胸にすみ着いたカエル。気ままに引っ張り回す存在を、世界王者という肩書に重ねる。1匹目は五輪金メダル。「これだけのことをしたんだから認めてくれ」。高慢だった。振り回された。

 戴冠後、2匹目が誕生したが「また1つのブームがきたな」と思えた。だから行動も変わらない。昨年のクリスマス前、30人分のケーキを手に都内の福祉施設へ。5度目の訪問。「王者になったら来るって言っていたけど、本当に来たね」の声にうれしくなった。

 5年ぶりの多忙な日々も今度は糧にした。CM共演したJ2横浜FCのFWカズが撮影中にあんぱんを食べていた。「練習し過ぎて、栄養取らないと体重が減っていく、と」。飽くなき向上心に感化された。

 1カ月前、取材時間に1時間遅れてきた。理由は「すみません、スパーが良くなくて…」。居残り練習が長くなった。「できないのは悔しいし、できたらうれしい。やりたてのような気持ちもある。そう思うとまだ続けられるなと」。新たに「できた」フィニッシュの右はそのたまものだ。

 「ゴロフキンとやりたい」。V2戦は米国、その先には最強王者を見据える。偉業にのまれず、偉業を成し続ける。【阿部健吾】