前IBFミニマム級王者で世界ライトフライ級1位の京口紘人（25＝ワタナベ）が、同級スーパー王者ヘッキー・ブドラー（30＝南アフリカ）を10回終了TKOで破り、2階級制覇を達成した。18年8月に減量苦からミニマム級を返上。辰吉丈一郎直伝の左ボディーをパワーアップさせ、日本人4番目の速さとなる12戦目で快挙を成し遂げた。

試合後の第一声は「まいどおおきに！」。マカオの地で京口が喜びを爆発させた。教科書通りの左ジャブで序盤から積極的に動き、要所で強烈な左アッパーをボディー、あごにたたきこんだ。何度も腰が落ちかけたブドラーが、10回終了と同時に京口のコーナーに歩み寄り、ギブアップ。完敗を認めた。

試合10日前、「ジョーちゃん」と慕う辰吉丈一郎氏から電話がかかってきた。「がんばれよ」。その一言だけでも力が沸いた。12歳で大阪帝拳に入門。憧れの人から直々に必殺の左ボディーを学んだ。ジムでのサンドバッグ打ちで飽き足らず、家に帰っても「ジョーちゃんはこう言ってたな」と居間でシャドーを繰り返した。体に染みついたそのボディー打ちは今や京口の武器。さらに階級を上げたことで威力はアップ。井上トレーナーが「まるで別人」と驚くほどのパワーで ダメージを与えた。

「自分にとってプラスでしかない」。転級の決断は間違っていなかった。18年5月ミニマム級王者として臨んだ2度目の防衛戦。約8キロの減量で体は限界だった。脱水症状となり3回に人生初ダウン。7回途中で足がつった。判定勝利で首がつながったが、翌日すぐに井上トレーナーに階級を上げたいと直訴した。

「ふに落ちない。負けてから階級を上げるのではなく、ベストパフォーマンスで戦いたい」。その時点でジムの男子の世界王者は京口だけ。それでも渡辺会長は、ベルト返上を快くのんで、背中を押してくれた。さらに酒豪の井上トレーナーは今回の世界戦に向け「京口を男にする」と禁酒。「こんなに選手ファーストなのはなかなかない。感謝しています」。選手思いの2人に勝利で恩返しした。

3歳から始めた空手では、一回りも二回りも違う相手と無差別級で戦い、かなわなかった。「同じぐらいのやつだったら絶対勝てるのに…」。階級制のボクシングに出会い、その悔しさを晴らした。だが強くなってもコンプレックスはつきまとう。試合の度に「面白くない」といった、ネット上の心ない書き込みをいくつも目にした。「（軽量級の試合を）価値がないと思っている人がいるのは否めない。ばかにできひんぞ、というところを見せたい」。誰もが納得する勝利を目指した。

「チャンピオンで年越して、本当にうれしい。来年は公言した通り、力つけて、いずれはビッグマッチ、統一戦を考えたい」と京口。WBCライトフライ級王者拳四朗との統一戦を匂わせた。【高場泉穂】